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日本ロック史上最高のトリックスター、THE TIMERSの絶品『TIMERS』!

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メンバー4人とも土木作業用ヘルメットを被り、手ぬぐいで鼻から下を覆った新左翼活動家のようなエキセントリック出で立ちで、徹頭徹尾、反体制のナンバーを演奏し続けたバンド、THE TIMERS。スタジオ録音盤は『TIMERS』1作品しか発表していないし、活動期間は1988年、1994年、2005年の延べ3年間程度であったものの、今もなお、ロックファンの間で語り草となっている存在である。その唯一無二の代表作『TIMERS』とは、どんなアルバムであったのか?

先月、安保関連法案が成立した。この法律の是非をここで論じるつもりはさらさらないが、音楽的な側面から言うと、国会前での反対デモに参加していた学生たちがラップを…厳密に言うとラップの影響下にあるシュプレヒコールを挙げていたのが個人的には印象に残っている。“サウンドデモ”とも連動する、その手法については、筆者はヒップホップに明るくないので詳しく語ることは避けるが、こうした反戦の思想、あるいは反権力の思想は、やはり音楽と結び付きやすいという点はかなり興味深かった。ベトナム戦争当時の反戦フォークがそうだし、歴代、反戦、反権力を表明してきたロックも多々ある。ジョン・レノンはその最右翼だろうし、イラク戦争に対する憤怒が表現されたGreen Dayのアルバム『American Idiot』辺りも鮮烈に記憶に残っている。日本においては先週紹介したMONGOL800であったり、彼らのルーツとも言えるTHE BLUE HEARTSにもそうした楽曲があったりするが、反権力の急先鋒と言えば、国内ではやはり忌野清志郎の右に出る者はいないだろう。反核と原子力撤廃の姿勢を表明し、メーカーからの圧力で発売が中止となったRCサクセションのアルバム『COVERS』はその象徴である。また、『COVERS』の翌年に発売された『TIMERS』は、さらにその反骨精神を先鋭化させた比類なき作品である。…おっと、この『TIMERS』はTHE TIMERSの作品であり、THE TIMERS はZERRY(Vo&Gu)なる人物が率いた覆面バンドなので、忌野清志郎とは無関係であった。ZERRYと清志郎とは、よく似ているので間違えた。失礼。
このアルバム『TIMERS』は、THE TIMERS唯一のスタジオ録音盤。本稿作成のため、久しぶりに聴いてみたら、本当にすごいアルバムであることを実感させられた。とにかく、やりたい放題なのだ。よくこれを録音したと思うし、ましてやメジャーレーベルからリリースできたなとも思う(発売したのは『COVERS』を発売中止にしたメーカーだったのだから、実はこの会社は懐が広かったのかもしれない。もしくは『COVERS』と“行って来い”だったのか)。「モンキーズのテーマ」のカバー、M1「タイマーズのテーマ 〜 Theme from THE TIMERS」の歌詞からしてこうだ。《きめたい 燃やしてくれ/さえない時は ぶっとんでいたい》《火をつけて この胸に/お前の匂いを かぎたいぜ》《いつでも 君と/トリップしたいな》である。一体何を燃やしてかぐんだか。鶴田浩二の「傷だらけの人生」のパロディーと言っていい、M4「ロックン仁義」では、《冗談のひとつもいえねぇ/好きな歌さえうたえねぇ/替え歌のひとつにもいちいちめくじらを立てる/いやな世の中になっちまったもんでござんすねぇ/えぇ社長どうなんだい》と語る。また、この作品が発売された年の初頭に昭和天皇が崩御あらせられたのだが、M8「カプリオーレ」ではブラームスの子守唄のメロディーの乗せ、《誰かが年おいて 死んだという/国をあげての お葬式の日は/彼女のトラックも 走れない》と歌い、M9「LONG TIME AGO」では《Long time ago 44年前/原子爆弾が 落ちてきたことを/この国のお偉い人は 一体どう考えているんだろう?》《Long time ago 44年経った今/原子爆弾と 同じようなものが/おんなじこの国に つぎつぎと出来ている》と叫んでいる。
M11「ギーンギーン」で《政治献金 成金議員 株券議員 黙秘権議会議員》と代議士を皮肉り(とは言っても、この楽曲では直接的に議員を揶揄している歌詞は上記くらいで、《参議院議員 衆議院議員》を繰り返すだけで、何か不吉な雰囲気を醸し出している秀逸なナンバーである)、やたらと緊張感のあるソウルナンバー、M12「総理大臣」では、《総理大臣 なんにもはっきり言わねぇ/遠回しでごまかしつつ喋る/何だか頼りねぇの/まるでプロダクションのタレントみたい/誰かの言いなりのタレントみたい》と、今も通用するようなアイロニーを振りまく。M12「総理大臣」には《外国行っても 恥ずかしくねぇ様に/アメリカ行っても 恥ずかしくねぇ様に/テレビに出ても おかしくねぇ様に/プロデュースしてやるぜ》なんて、現在を予見していたかのようなフレーズもある。戦争や政治家を口撃するだけならまだしも、M14「税」では《税 税 税 税 いやだぜ納税/僕だけ免税/はらうぜ血税/もめるぜ税制/ここらで減税/憧れの脱税》《教えてほしいゼエ 税のゆくえを/そんなに金集めて どうすんだい/俺にギターを 買ってほしいゼエ》と、国民の義務にまで疑問を投げかけている。いやはや、その主張は無頼派なんてもんじゃない。ここまで来ると、ほとんどアナーキズムだ。
ところが、このアルバム『TIMERS』。その聴きごたえは単なる無政府主義者のアジテーションという代物ではない。実にポップなロックアルバムである。ロカビリーやフォーク、カントリー、演歌とジャンルも多彩だが、サウンドは至ってシンプルなものが多く、アコースティック色が濃いという点では派手さは薄い。もちろん、M5「デイ・ドリーム・ビリーバー 〜DAY DREAM BELIEVER〜」という名曲のキラキラした感じにもポップさの要因はあるが、最もポップさを醸し出しているのは、短くキャッチーな言葉を、これまたキャッチーなメロディーに乗せ、それをリフレインしていることによるのだと思う。M10.「3部作」(イ.「人類の深刻な問題」、ロ.「ブーム・ブーム」、ハ.「ビンジョー」)が顕著だが、このアルバムの収録曲の多くはこの構造だ。M2「偽善者」もそうだし、M3「偉人のうた」もM7「争いの河」も、前述のM11「ギーンギーン」やM12「総理大臣」もそうだ(ちなみに本作収録曲ではないが、TV番組『ヒットスタジオR&N』でゲリラ的に披露された某ラジオ局を罵倒した楽曲ですらその構造だ)。3コードの循環というのはR&Rの基本中の基本でもある。言っていることは強烈で、サウンド装飾は必要最低限だけど、耳馴染みはいいのは基本に忠実だからなのかもしれない。
また、本作はM1「タイマーズのテーマ 〜 Theme from THE TIMERS」で始まり、M16「タイマーズのテーマ (エンディング) 〜 Theme from THE TIMERS (ending)」を経て、ロックの古典的インストナンバー、M17「Walk don’t run」で締め括られるのも、このアルバムの作品性を高めていると思う。「A Day in the Life」に当たる曲こそないものの、所謂円環構造の後に短いトラックを入れているのは、The Beatlesの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』へのオマージュだろう。こういうところも心憎い。
三宅伸治似のトッピ(Gu)、それぞれヒルビリー・バップスの川上剛(Ba)と杉山章二丸(Dr)とに酷似しているボビー(Ba)とパー(Dr)の3人が中心となって復活することがないわけでもないだろうが、おそらくTHE TIMERSが表舞台に姿を現す可能性は極めて薄いであろう。今さらながら残念に思うが、しかしながら、現在の日本ロックシーンを見渡してみると、さすがにZERRYほど派手なパフォーマンスを展開する人はいないが、日本の政府や原発保有電力会社を批判した替え歌を披露した斉藤和義や、反原発デモや反レイシズム運動にも積極的に参加しているソウル・フラワー・ユニオンの中川敬、あるいはBRAHMANのTOSHI-LOW、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文ら、自らの主張を貫くアーティストはまだまだたくさん居る。いつだったか、某バンドのリーダーがちょび髭姿を披露したこともあった。結局、あのちょび髭は批判に晒されて謝罪したように記憶しているが、あれはTHE TIMERSとは知名度もセールス規模も大きく異なる国民的バンドの仕業だったがゆえに致し方ない…とまでは言うつもりはないが、その後の対応を危機管理の面からのものと考えると理解できなくはない。だが、ZERRYのようなトリックスターの存在をまったく許さない社会というのは正直言って恐ろしい。中世ヨーロッパの支配者層が宮廷道化師を召抱えていたことと同列ではないが、本当の権力者はそれに近い寛容さを持たなければならないと、久々に『TIMERS』を聴いて思ったところである。

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