人気力士も常連。相撲女子&羊肉好きは巣鴨のモンゴル料理屋「シリンゴル」へ!

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モンゴルと聞いてみなさんは何を連想するだろう。羊を放牧し移動式の住居に暮らす遊牧民か。鎌倉時代の蒙古襲来や昭和初期のノモンハン事変といった戦争の歴史か。赤ちゃんのお尻にできる蒙古斑だろうか。

あるいは、モンゴル勢が席巻して久しい相撲かもしれない。朝青龍に白鵬、日馬富士に鶴竜。ここ十数年、横綱になった力士はモンゴル出身の力士ばかり。モンゴルといえば相撲の強い国というイメージがいまではすっかり定着している。

そのように断片的なイメージはたくさんある。とはいえ、この国がどんなところなのか、現地の様子を詳しく知っている人は少ないのではないだろうか。かくいう僕もこの国に行ったことはなかったし、人々の暮らしぶりをよくは知らなかった。

今年の夏の初め、現地に住む日本人の友人を訪ねて初めてモンゴルへ渡った。印象に残ったのは、首都のウランバートルを一歩離れると大草原が広がっていたこと、そこで暮らす遊牧民のワイルドな食習慣を目の当たりにしたことだ。

たちまちモンゴル料理の虜になった僕は、帰国した後もモンゴル料理の禁断症状が抑えられなくなった。そこで今回、紹介する店まで出向き、本場さながらの味を堪能してきた。

果たしてモンゴル料理とはどんな料理なのか。なぜ僕がやみつきになったのか。また、モンゴル力士の強さと料理の関係についても考えてみた。羊肉に目がない読者の方々、必見です!

 

ナイフで器用に羊をそいで食べるモンゴルの人々 

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成田からの直行便で約5時間半。首都のウランバートルへやってきた。摩天楼と渋滞、横断歩道の人混み。日本人が抱く、モンゴル的なイメージとは違う大都会の風景がそこにはあった。街の人口は約136万人(2014年)。モンゴルの全人口が約300万人(同)だから半分近くが暮らしていることになる。ちなみにこれまで横綱になった力士はみなこのウランバートル出身だ。

 

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ウランバートルから東南東に約53キロ。郊外行きのバス、乗り合いのワンボックス、そして乗用車のヒッチハイクと車を乗り継いで、現地在住の友人の通称“モンゴルだるま”とともに「モンゴルだるま牧場」(そのままやないか!)を訪ねた。彼女はウランバートルを拠点に、通訳やコーディネート、コンサルタントといった仕事をこなす傍ら、馬約30頭、牛約30頭、羊と山羊合わせて200頭余りをこの付近で飼っている。「付近」とぼかして書いたのは、毎年、草原を転々とするからだ。

 

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友人の飼っている羊たち。友人がウランバートルへ出かけているあいだに、牧羊のスタッフが一頭、羊を屠っていたそうで、「ゲル」と呼ばれる移動式住居の中には表面の毛を焼かれた羊の頭が目を見開いた状態で置かれていた(画像は自粛!)。友人によると「いなくなっていた飼い馬を見つけ出し、連れ戻せたお祝いに、羊を屠ってどんちゃん騒ぎをしていた」とのこと。

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僕を歓迎するのではなく、スタッフたちの勝手な振る舞いの“おかげ”で、新鮮な羊肉をありつけることに。ばら肉周辺の肉を骨付きでぶつ切りにして、野菜とともに煮込む。煮炊きする燃料は乾燥させた牛の糞。味付けは塩だけ。1時間半ほど煮込むと羊の脂が浮いた飴色のスープとなった。

 

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ばら肉はステンレスの皿にどーんと置いて、ナイフでそいで食べる。羊のだしが利いた野菜やスープも後でいただいたが、濃厚なのにシンプルという野性味溢れるおいしさに満ちていた。絶えず運動している羊だけに歯ごたえもあった。

 

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モンゴルではみんな器用にナイフで肉をそぐ。肉を食べるのは大人だけでなく、生後半年ぐらいの赤ん坊にも、母親が羊肉を与えて食べさせていた。ワイルドだなあ。

 

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こうしたワイルドなモンゴル体験をしたい読者は僕の友人“モンゴルだるま”にぜひコンタクトを。彼女、大学生の頃に通訳を始めて、いまや四半世紀のベテランです。

「乗馬とリアルなゲル生活体験できるよー」(by モンゴルだるま)

ちなみに写真はモンゴルだるま牧場の社用車。写真を見てピンと来た人は鋭い。そう、あいのりモンゴル編は“モンゴルだるま”がコーディネートしたのだ。 

 

肉汁ジュワーの羊肉蒸し饅頭「ボーズ」

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帰国後、モンゴルで食べた羊肉の野趣溢れる味が忘れられず、羊が食べたくて仕方なくなった。そこで都内にあるモンゴル料理屋に行ってみることに。そこは「シリンゴル」という巣鴨にあるお店だった。おばあちゃんの原宿とモンゴルという組み合わせが意外な感じ。

 

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巣鴨駅から歩くこと約10分。住宅街の一角にその店はあった。店構えにゲルが使われているかと思いきや、マンションの半地下というロケーション。お店のオフィシャルWEBサイトによると「95年に日本初のモンゴル料理店として創業、馬頭琴の生演奏を聴きながら、本格的なモンゴル料理を堪能できるお店です」とのこと。

 

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店に入るとテーブル席がふたつ目についた。正面奥にあるのはモンゴル伝統の楽器であるモリンホール(馬頭琴)。「スーホの白い馬」という民話を小学校のころ、教科書で読んだという方も多いのではないか。

 

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奥は座敷の席。天井はゲルを模した幕や骨組みで覆われていた。ちなみに左奥はモンゴル相撲の衣装、その隣は女王の衣装だろうか。右端の絵は歴史上の英雄であるチンギス・ハンの肖像画だ。

 

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席につくなり、テーブルにはお通しのようなものが運ばれてくる。岩塩、揚げパン(ボーブ。代表的な茶菓子で遊牧のときの携行食でもあるらしい)、アワ、ひまわりの種。塩っ気と独特の臭みがあるスーテーツァイ(モンゴルミルクティ)を飲んで料理を待った。料理代のほかにサービス料が525円かかる。

 

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岩塩はもちろんモンゴル産。おろし金で削るのだけど硬いのなんのって。正直骨が折れた。舐めると強力なしょっぱさ。

 

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まず頼んだのはシャルビン(400円)。一見するとインドのナンのようだが……

 

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割ってみると、中には羊肉と白菜やネギといった少々の野菜が。これは揚げた「おやき」みたい。

 

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羊肉蒸し饅頭のボーズ(700円)。黒酢をつけて食べるのは内モンゴル風か。中国の饅頭、チベットのモモ、ロシアのペリメニと北東アジアにはこの手の料理が各地にある。

 

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羊肉の他にネギと白菜が具として練り込んであり、割った途端に肉汁がジュワーっと。この瞬間がたまらない。

 

やっぱりハズせない定番料理「チャンサンハマ」

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日本人にとっては珍味に思える羊の脳みそ(1,000円)も現地ではポピュラーな一品。1頭分の脳みそを羊肉スープで煮込んだもので、見た目こそグロいものの、豆腐のような 柔らかさとレバーのような後味で意外に食べやすい。二つあるように見えるのは前頭葉 と後頭葉が分かれているため。タレが焼き肉風だからか「まるでモツ焼きのようだ」と、同行の編集者。添えられたゴマだれにつけて食べるのはちょっと中華料理風とのこと。それもそのはず。この店の名前、シリンゴルとは中国領土の内モンゴル自治区にある地名で、調理スタッフはモンゴル国ではなく、内モンゴル出身なんだそうだ。

 

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これが本日のメインディッシュのチャンサンマハ(1,500円)。骨付き羊肉を塩茹でしたシンプルな料理であり、モンゴル料理の定番中の定番である。現地モンゴルでは、ばら肉だったが、こちらは背骨回りの肉だった。

 

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このお店「シリンゴル」代表の田尻啓太さんによると「週に約2頭丸ごと仕入れ、店で解体しています。現在モンゴル産の羊肉は輸入許可されていませんので、比較的味が近いニュージーランド産の羊肉を使用しています」とのこと。

 

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慣れないせいか、ナイフで肉を削ぐのに悪戦苦闘。メニューには「ナイフさばきはいい男の条件。ナイフで削いだり、かぶりついたりして、どうぞ!」と書いてある。どおりでモンゴル男はみんなナイフ裁きがうまいわけだ。

 

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ナイフで肉を削ぐのがもどかしくなって、かぶりつくと、岩塩だけのシンプルな味と肉の臭みが口の中に充満した。肉を噛みちぎりながら、納得のうまさに涙がでそうになる。そうそう、この臭みと歯ごたえだよ、求めてたのは!

 

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飲み物にはアミールハイ(600円)を注文。馬乳酒に近いカルピスのような飲み物に焼酎を混ぜたさわやかな味。肉を大量に食べてもたれたお腹にはちょうど良い。だけど、せっかくだからもっとディープなのにすれば良かったかも。

 

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午後8時すぎ、厨房に立っていたチンゲルトさんが調理の手を止めて出てきて、馬頭琴を演奏し始めた。馬の形を模した棹、四角い共鳴箱、2本の弦というこの楽器。弓で弦をこすると雄大で素朴な音色とともに、なんとも優雅な旋律がゆったりと流れてきた。ちなみに弦と弓は馬の尾毛なんだとか。

 

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シメには、シリンゴル特製の香菜腐乳パスタ(1,300円)。パクチーと腐乳とオリーブオイルだけと、これまたシンプルだが、いわゆるペペロンチーノに比べるとコクがあり、パクチーならではの青味と腐乳の酸味がスッと鼻に抜ける。独特のさわやかさを持ったオリジナル料理に舌鼓を打った。

 

食後、田尻さんに訊ねてみた。まずはモンゴル力士について聞いてみる。

「お相撲さんたちはよく来ますよ。今だったら逸ノ城とか。朝青龍や白鵬は大関になるぐらいまでは来てましたね。一番来たのは旭天鵬。彼は20年前の開店当初から来ていましたよ。そのころはここしかモンゴル料理屋はなかったですし。朝青龍が大関になるぐらいのとき、両国にもいろいろモンゴル系の店ができましたけどね」

そう言われて頭に浮かぶのは彼らモンゴル勢の強さ。その秘密はやはり食と関係あるのだろうか。

「大きいと思いますよ。そもそも羊肉は、太りにくくて脂肪にならないのが特徴なんです。全部筋肉になるんですよね。あと強さの源といえば、馬に乗ってることで鍛えた強靱な足腰と、絶対成功するぞ!というハングリー精神でしょうか」

モンゴル料理に対して田尻さんは「羊をいかに食べるかがすべて。羊以外の肉は基本的に食べないですし、野菜も食べない。肉が無駄にならないよう、一頭丸ごとムダなく食べるから、それだけで事足りてしまうんです」と胸を張った。

羊肉の独特の味と歯ごたえ。すっかりやみつきになってしまった。

 

お店情報

シリンゴル
住所:東京都文京区千石4-11-9
電話番号:03-5978-3837
営業時間:18:00~22:30
定休日:年中無休(夏季休暇・年始休暇を除く)

 

書いた人:西牟田靖(にしむたやすし)

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1970年大阪生まれのノンフィクション・ライター。多すぎる本との付き合い方やそれにまつわる悲喜劇を記した自著「本で床は抜けるのか」(本の雑誌社)を2015年3月に出版。主な著書は「僕の見た大日本帝国」「誰も国境を知らない」など。Twitter:@nishimuta62

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