ガジェット通信

見たことのないものを見に行こう

金田一秀穂氏 「戦争法案」は「女子会」同様気分盛り上げ言葉

DATE:
  • ガジェット通信を≫

 近年、嫌~な日本語がやたらと使われている。日本語学者で杏林大学外国語学部教授の金田一秀穂氏は、そのひとつとして「戦争法案」を挙げる。いったいなぜなのか。

 * * *
『論語』にこんな一節があります。ある時お弟子さんが「先生が政治をやられるとしたら何をなさいますか」と孔子に訊ねる。すると孔子は「まず名を正そう(必也正名乎)」と答えるのです。「名」は「言葉づかい」と訳しても差し支えないでしょう。政治は言葉で動くのだから、まずその使い方を厳密にしておかなければならない、と言うのですね。

 ことほど左様に言葉は大事なのですが、今の政治家にその意識はあるのでしょうか。

 例えば安保法案をめぐってしばしば使われた「国民の理解」(を得る/得られない)という言葉。総理をはじめこの言葉を使う時には必ず「理解=賛成」という願望がこめられています。「理解しているから反対するんだ」という人だっているのに、「反対するのは理解していないからだ」と言わんばかりです。

 こうなると反対意見に耳を傾けたり、法案の正否を改めて点検したりはできませんね。つまり議論を放棄しているのです。

 では反対する野党はどうかと言いますと、こちらはこちらでやっぱりお粗末。彼らは安保法案を「戦争法案」と呼び、その上で反対する。

 そう呼んだからと言って法案の中身が変わることはありません。一方で、この言いかえによって本質が歪められてしまう大事な言葉がある。「戦争」です。これは非常に重たい言葉で、そう軽々しくは使えないし、使う時は具体的な思考の立脚点として、慎重に扱わねばなりません。

 ところが「戦争法案」と呼ぶ人々の「戦争」には具体性も重みもない。無条件で悪だから反対とされ、これでは思考停止です。悪いことに本質は失われても言葉そのものは「戦争」ですから、なにか大ごとに取り組んでいるような気分になれる。つまりこうした言いかえは、思考よりも気分を助けるのです。賛成前提の「国民の理解」もやはり気分に傾いていますね。

 気分を盛り上げるのは、言葉の持つ魅力的な効能のひとつでして、例えばペットの雌雄を「女の子/男の子」と呼び、飼い犬を「ウチの子」と言いかえる方がいます。また、失礼ながら「ちょっとそのお年では……」と思うような女性が平気で「女子会」と呼ぶ食事会を催す。

 対象は同じでも、別の言葉を使うことで親密さや仲間意識が強まるのでしょう。大衆の言葉の中には違和感を覚えるものもありますが、こうした場面で当人が言葉の楽しみを味わっているのなら、それはそれでいいと思っています。

 しかし大事なことを決定するオフィシャルな言葉に対してさえ同じ態度で接してしまってはいけません。ましてやオフィシャルな言葉のプロであるべき政治家のみなさんが、「戦争法案」と言われたら今度は「平和法案」だの「積極的平和主義」だの、またまた言いかえを行うように、気分優先のおしゃべりしかできなくなったらおしまいでしょう。

 まず「名を正す」こと。言葉の「遊び」の部分まで国民を代表して下さいなどとは、誰も頼んでいないのですから。

※SAPIO2015年11月号


(NEWSポストセブン)記事関連リンク
SAPIO人気連載・業田良家4コマ漫画「再稼働に反対」
安保法制関連暴言妄言集 麻生太郎氏、武藤貴也氏、石破茂氏
落選運動 安倍首相、菅官房長官、鴻池氏、ヒゲの隊長ら標的

NEWSポストセブンの記事一覧をみる ▶
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

TOP