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【連載:映画で分かる女の本音】未練は愛しているからこそ生まれるもの~『岸辺の旅』~

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今年の5月に開催された第68回カンヌ国際映画祭。今回、ピックアップした作品は「ある視点」部門で監督賞受賞をした黒沢清監督の『岸辺の旅』です。

ざっくり、あらすじを言いますと──3年間失踪していた夫・優介(浅野忠信)が、ある日突然戻ってきて、妻の瑞希(深津絵里)と一緒に空白の時間をたどる旅に出る、というお話です。

ものすごく静かに淡々とふたりの旅が描かれ、物語は進んでいくんですが、“淡々”としているのに、観ている側の心はものすごく揺れ動いていきます。女性はもちろん瑞希に自分を重ね、そこから感じるのは“待つ”ことの苦しさ、切なさです。
以前、故郷を離れるとき友人に「旅立つ人よりも送り出す人の方が寂しいんだよ」と言われたことがあります。確かにそのとおりだと思いました。旅立つ人は、行き先や目的があるわけですから、旅立つ瞬間が寂しかったとしても、一歩、歩き出せば行き先が見えてくる。

でも送り出す方は、送り出す瞬間にその人との思い出にいったん終止符が打たれ、思い出という形で記憶に刻まれるわけです。そして、送り出すことは待つことでもあって──。

たとえば、愛する人が単身赴任で遠くに行ってしまったとすると、送り出した後は帰ってくるのを待ちわびる。また、ものすごく好きな人にフラれてしまった場合は、相手が自分から去っていく(旅立っていく)のを見て、気持ちの整理がつくまではやっぱり待ってしまう。相手への愛が大きければ大きいほど“待つ”側って、ものすごく切なくて苦しいと思うんです。
何が言いたいのかというと、この映画の冒頭で、優介は「俺、死んだよ」という言葉と共に瑞希の前に現れるんですね。観客は優介が幻なのかそれとも何か理由あっての言葉なのか、不思議な気持ちでふたりと旅をすることになります。

3年間も愛する人を待ち続けたのに、現れたかと思えば今度は永遠の別れをほのめかす。瑞希にとってはずっと“待つ”時間が続いていることになります。だから、切なくて苦しい。ですが、そう感じるのはそこに深い愛があるからでもある。
優介と瑞希から感じた愛は「未練は美しい」という愛の形でした。あと少し一緒にいたい、幻であってもそばにいたい、いてほしい……。未練が生まれるということは、愛がある証でもある。この映画がものすごく美しい愛の物語だと思うのは、きっとそういうことなんだと思うんです。

 

『岸辺の旅』

10月1日(木)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
(C)2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
ショウゲート

【キャスト】
深津絵里 浅野忠信

小松政夫 村岡希美 奥貫 薫 赤堀雅秋 千葉哲也
藤野大輝 松本華奈 石井そら 星流 いせゆみこ 髙橋 洋
深谷美歩 岡本英之

蒼井 優 首藤康之 / 柄本 明

【監督】黒沢清
【原作】湯本香樹実 『岸辺の旅』(文春文庫刊)
【脚本】宇治田隆史、黒沢清
【音楽】大友良英、江藤直子

公式サイトURL:kishibenotabi.com

 

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