あってもなくてもトラブル生む遺言書、作成時の心構えを学ぶ

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あってもなくてもトラブル生む遺言書、作成時の心構えを学ぶ

円満、円滑な相続に大きな意味を持つ遺言書

今年から改正された相続税の課税基準によって、これまで他人事だった相続への関心はかなり高まってきています。円満、円滑な相続のためには被相続人の遺言書が大きな意味を持つことは広く知られていることだと思います。しかし、当事者からすれば「いつ遺言を書くのか?まだまだ自分は元気だから時期尚早」と思うのが人情ですし、残される側からすれば「遺産分割協議で時間と労力を費やしたくはないので、元気なうちに書いてほしい」というのが人情です。

相続が「争続」「争族化」しつつある現在、遺言書の持つ意味はますます重みを増しています。とはいえ遺言は、「残さないことで発生するトラブル」だけでなく「残すことで発生するトラブル」の両面を併せ持つ厄介な代物でもあるのです。

遺言書を残すことで起こるトラブル

ここでは「残すことで発生するトラブル」の事例を紹介しましょう。

(1)不動産の名義
母親の遺言書に、長男に郷里の土地を相続させると書かれていたものの「実は未だに祖父名義のまま」など、不動産の相続の手続き(名義変更)を失念したまま放置していたケースは珍しくありません。こういった事例では、母方の祖父の兄弟姉妹(死亡の場合は代襲人)に相続権が発生しているので、自分が相続をするためには推定相続人全員の承諾を必要とします。顔も見たことがないような「親族」に、相続放棄の書類に判をおしてもらうのは大変です。見返りを要求されることも少なくありませんので、想定外の「争族」が発生します。まれにですが、自分の名義で土地を所有している事自体を忘れている場合もあります。判断能力が衰えてくる高齢になれば、その危険性は高まります。

(2)預貯金の残高
自分名義の、金融機関ごとの口座名を書き残しておくのは大切なことです。しかし、稼働している口座であれば、日々の入出金で残高は常に変動するので、預貯金残高までを記載するのは考えものです。遺言にあった金融機関の口座残高が、実際に確認した時点では著しく減少していた場合(なかには解約している場合もあります)、相続人たちがどういう考えに至るかは説明不要でしょう。

最近は、内容に不正確・不十分な記載があることによる無効化や、紛失・盗難・改ざんのリスクの高い自筆証書遺言よりも、公証役場で作成・保管する公正証書遺言が推奨されるケースが多くなってきています。しかし、肝心の被相続人本人の把握している財産に上記のような錯誤があった場合には、全てを公証役場でチェックできるものではありません。そうなるとせっかくの公正証書遺言自体の有効性に「問題あり」となってしまいます。遺言を書くという一大決心をしたならば、記載内容の完璧を期すことを心がけてください。

書くのであれば、十分な配慮と正確性の徹底が求められる

今回は、遺言を残す際に意識すべきことについて紹介してきました。個々で見れば小さな見落としや手違いですが、その結果は時として想像以上に深刻なものになります。そしてその時には、自分の手で解決することはできないのです。

とはいえ「全ての責任は被相続人にあり」と、いきなり正確な内容の遺言を作成しろと言うのもそれはそれで難しい話です。「満点を」と気負わずに、まずは文字にすることからはじめてください。何回かに分けてメモに書き出すことで不備や漏れに気づきます。最近はやりの「エンディングノート」「ライフプランノート」といった専用のノートが市販されていますから、練習台と思って利用するのもいいでしょう。

遺言書は、書かないよりは書く方が残される側にとっては何倍もありがたいことなのですが、書くのであれば「十分な配慮と事実確認に基づいた正確性の徹底が求められる」と言うことを念頭において作成してください。

(寺田 淳/行政書士)

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