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「源氏物語」は文学の世界遺産?――上野誠さんインタビュー(3)

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 版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』第71回は、『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』(幻冬舎/刊)の著者であり、万葉集や万葉文化の研究者として知られる奈良大学文学部教授の上野誠さん。
 この本では大和言葉を定義しなおしつつ、万葉集の第一人者だからこそ書ける、日本語の奥深い物言いを紹介する一冊。メディアへの出演経験も豊富で、惹き込ませるトークも評判の上野さんのお話をぜひ楽しんでください。3回にわたるインタビューの最終回をお伝えします。
(新刊JP編集部/金井元貴)

■「源氏物語」は文学の世界遺産!

―― 上野さんは万葉集や万葉文化の研究者として知られていますが、どうしてその道に進んだのですか?

上野: もともと歴史を勉強したかったのですが、大学の入試では国文学を選んだのです。ただ、それが良かった。人に対する関心が強かったから。歌の「情」にひき込まれたんです。
折口信夫は、学問の究極は詩や演劇、小説、つまり文学になるということを言っているんですね。どういうことかというと、学問が学問の中に閉じこもり続けていても、人には伝わっていかない。学問を究めた人は、詩人であり小説家になるということです。実際に折口信夫は日本を代表する歌人でしたし、小説も書いていました。

―― 上野さんも「人に伝える」という道に進んでいらっしゃいますね。

上野: 僕も一冊だけど『天平グレート・ジャーニー』という小説を書いたし、オペラの脚本を書いたりしていますし、そういう形を目指しています。その一方で研究者として論文を書き、学会発表したり、学会誌に掲載したり、という仕事も手を抜いていません。

―― 自分の仕事を複数の表現方法で発表する研究者はなかなかいないと思います。

上野: 創作と評論と研究が分かれ過ぎていますね。昔の学者はそんな小さなことを考えていなかったと思います。

―― 上野さんが今、興味を持っているものはなんですか?

上野: 40半ばを過ぎてから大和言葉や仏像のような動かないものの方が好きになってきましたね。若い頃は動くものの方が好きだったのですが。例えば女性とかね(笑)もちろん今でも女性は好きですけどね。
大和言葉といえば、「源氏物語」ってものすごい作品で、紫式部は漢文の知識が豊富だったけれど、あえてこの物語を和文で書いているんです。だから現代に生きる私たちも、その言葉の肌触りを実感できます。これは同時代に書かれた菅原道真の漢詩と比較すると分かります。道真の漢詩もすごいけれど、現代に生きる私たちは彼がどんな詩を残したのかほとんど知らないし、そもそも中国の詩の二番煎じでもある。世界的評価を受けているのは「源氏物語」ですよね。和文で構成された長編小説を、11世紀に書いてしまったわけだから。
以前、瀬戸内寂聴先生が「源氏物語に勝てる小説を書いた人はいないのよ」と言っていましたが、僕もそう思います。もし文学の世界遺産があるとすれば、「源氏物語」は最初に選ばれるべき作品です。その小説を作り上げている和文、大和言葉を日本の文化として大切に使いながら生きていくべきだし、それを活かしながら文化を豊かにしていくことが重要なのではと思いますね。

―― 上野さんがこれまで影響を受けた本を3冊ご紹介いただけますか?

上野: そうだなあ、3冊か…(しばらく考え込む)。

―― 3冊が難しければ1冊でも大丈夫です。

上野: レヴィ=ストロースとか言いたいけれど、ちょっと硬すぎるかもしれないから(笑)、夏目漱石の『坊ちゃん』にします。夏目漱石といえば、人生の深みを語る小説の書き手として名高いですが、そこ抜けに笑えて、坊ちゃんが好きになるあの世界を忘れてはいけないと常に思っています。だから、あえて『草枕』でも『明暗』でもなく、『坊ちゃん』を挙げます。

―― ありがとうございます。では、最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。

上野: この本に書かれている言葉って、おそらく皆さんが日常で使っている言葉であって、新しさはないと思います。でも、語源や使い方に触れて、自分の気持ちを伝えるときに使ってもらい、その言葉を好きになってもらえれば、この本を書いた意味はあると思います。

■取材後記
「日本語」や「大和言葉」について大変興味深いお話をしてくださった上野さん。特に「日本語のしなやかさ」については目から鱗が落ちるような想いで聞いていました。言葉は常に変わっていくものであり、正しいか正しくないかという視点も大事ですが、それよりも「楽しく深みのある」ものとして言葉を学びたいと思いました。
(金井元貴)


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