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認知症の夫が起こした火災に対する妻の責任

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 認知症の夫が自宅で1人の時に火災を起こし、隣家に燃え移った場合に、妻の責任が問題となっていた訴訟に決着が着きました。
 今回は、この訴訟について見てみたいと思います。

 平成25年4月2日に、妻(72歳)は不在通知を見つけたため、郵便局にでかけました。家には認知症を患う夫(82歳)がいましたが、外出の際に声をかけたところ、大丈夫だから行っておいでとの返答があったため、夫を残して外出しました。その間に、夫は新聞紙にライターで火を付けて布団に投げつけ、火災が発生し、隣家の屋根と壁に延焼しました。
 警察は夫に刑事責任能力が無いと判断し、大阪府が措置入院としましたが、平成26年に亡くなっています。夫婦は延焼の損害を補償する火災保険に加入していませんでした。隣人は、平成26年4月に、夫への監督義務を怠ったとして妻に200万円の賠償を求めて訴訟を起こしました。

 一審では妻に重過失があるかどうかについて問題となりました。
 なぜ「重過失」が問題となるのでしょうか?不法行為について定めた民法709条によれば、「故意又は過失」があれば損害賠償責任を負うことになっています。
 しかし、日本では木造の建物が多かったため、類焼の危険性が多いこと、また失火者自身も自分の建物を焼失して損害を受けているところに、さらなる損害賠償責任を負わせるのは酷であるという考えに基づいて、明治32年に「失火ノ責任ニ関スル法律」(「失火責任法」といいます。)が定められて、失火した人の責任が緩和されています。
 失火責任法は一つの条文しかない短い法律としても有名です。失火責任法では、民法709条の規定は失火の場合には適用しないこと、ただし、失火者に重大な過失があった場合には適用されることを定めています。したがって、重過失の有無が問題となります。

 大阪地方裁判所は、民法752条の「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」という規定を根拠に、妻には夫の異常な行動をしないかを注意して見守る義務があるとして、夫を残して外出したことは「重大な過失」に該当すると判断し、妻の賠償責任を認め、隣家の修理費の支払いを命じました(大阪地判平成27年5月12日)。
 しかし、この判決に対しては、在宅で介護している人に四六時中目を離さないようにしてどこにも外出できないようにするもので、過重な負担を強いるのではないか、といった批判がなされました。

 控訴審で争われていましたが、大阪高裁では「妻に重過失は認められない」として和解が勧告され、訴えた隣人が請求を放棄することなどを条件に和解が成立したとのことです。
 認知症の家族を抱える方に少しほっとする判決となったのではないでしょうか。

元記事

認知症の夫が起こした火災に対する妻の責任

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