「大和言葉」とは一体なんなのか?――『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』上野誠さんインタビュー

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「大和言葉」とは一体なんなのか?――『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』上野誠さんインタビュー

 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第71回の今回は、話題の単行本『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』(幻冬舎/刊)の著者であり、万葉集や万葉文化の研究者として知られる奈良大学文学部教授の上野誠さんに登場していただきました。
 言葉とは使ってきた人たちの歴史を背負っているものであり、その時代によって日々変化する“歴史的存在”。その中でも、古くから変わることなく使われ続けてきた日本固有の言葉が「大和言葉」です。
 この本では大和言葉を定義しなおしつつ、万葉集の第一人者だからこそ書ける、日本語の奥深い物言いを紹介する一冊。メディアへの出演経験も豊富で、惹き込ませるトークも評判の上野さんのお話をぜひ楽しんでください。3回にわたるインタビューの前編です。

■そもそも「大和言葉」とは一体なんなのか?

―― 今、大和言葉がクローズアップされています。大和言葉と聞くと、なんとなく古い言葉という漠然としたイメージがあるのですが、上野さんの定義から教えていただけないでしょうか。

上野: 大和言葉とは、今ある日本語から外来語――中国語起源、ポルトガル語起源、オランダ語起源、英語起源など外国からやってきたものを差し引いて残った言葉です。でも、僕自身は、外国語起源の日本語でも大和言葉に入れていいと思っています。

―― それは何故ですか?

上野: 例えば「さぼる」という動詞は、フランス語の「サボタージュ(Sabotage)」が由来です。この言葉のすごいところは、その「サボ」に活用語尾を付けることで日本語に取り込んでしまっている部分です。日本語が海外の言葉をどんどん自分のものにして、より豊かになっているということを表しています。
言葉をたくさん持つということは、表現がより自由になるということです。心の小さな機微でさえも言葉として表現できて、自由に想いを伝えられるようになるのですから。
「大和言葉と外来語は明確に分けるべきだ」と訴える人もいますが、僕はそうは思いません。言葉の性質を知らない人の言い分だと思います。もともと日本人は外来語をうまく取り込んで自分たちの言葉にしてきた歴史があるわけですから、外来語と大和言葉を明確に区別する必要はないはずです。

―― では、大和言葉の最大の特徴とはなんでしょうか。

上野: 「情」を伝える言葉だということですね。一方で、漢語は「理屈」を伝えます。例えば「ありがとう」は大和言葉で、「感謝」は漢語です。比較してみると、言葉の質感がまったく異なると思いませんか?

―― 漢語になると妙によそよそしい雰囲気が出てきますね。

上野: 自分が臨終を迎えたときに、妻に対して「あなたとの50年の夫婦生活について感謝致します」なんて言わないですよね。「ありがとう」を使いたいじゃないですか。

―― この『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』を読んでいて、人間の体の名称を使った比喩表現が豊かだなと思いました。

上野: それはあるでしょうね。自分の体を使って置き換えて表現することに意味があるのでしょう。

―― この本の中で特に上野さんが好きな大和言葉はありますか?

上野: そうですね…。「しなやか」(143ページ)は良いですね。これは自分自身心がけていることで、原理原則を明らかにするのが学問ではあるけれど、それをどう伝えるのかというのも大事なんです。そのとき、しなやかに相手のことを考える、しなやかに考えられることが必要だということです。
「しなる」は、ものが曲がるという意味だけど、弾力性がある場合に使います。いろいろな形に変えつつも元の形に戻る力を持っている。この元の形に戻るということが非常に重要なのだと考えています。

(中編に続く)


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