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鎌田實医師 人生に意味や答えはないと思うに至った映画とは

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 長野県の諏訪中央病院名誉院長・鎌田實医師は映画が大好きで、高校時代は年間150本も鑑賞。シナリオを自己流に書いて、映画監督になるか、医者になるか、迷った時期もあったという。鎌田氏は「あの青春時代、映画の中に、どう生きるべきか、答えを探していたように思う」と振り返り、「あれから約50年、ぼくはまた人生に迷い、映画館通いを始めた」という。今年の夏は、「ジュラシック・ワールド」と「ミッション・インポッシブル/ローグ・ネイション」も見た。

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 この夏、戦争と人間を描いた映画を何本も見た。「日本のいちばん長い日」もよかった。芥川賞作家の高井有一原作の「この国の空」は、中年の男性に恋をしてしまった若い女性の目で戦争をとらえている。茨木のり子の詩「わたしが一番きれいだったとき、わたしの国は戦争に負けた」という一節が胸に迫る。この映画の中年男と関係してしまった若い女性の、戦争に負けた日の言葉がすごい。「これから私の戦争がはじまる」

 ドイツ・フランス合作映画の「ふたつの名前を持つ少年」は、実話を元に作られた。ユダヤ人の8歳の少年が、ユダヤ人の名前とポーランド人の名前を持ち、ナチス迫害を逃れて生き抜いていく。美しい風景を背景に、人間の弱さと強さが交錯する物語だ。

 サスペンス仕立てで引き込まれるのは「あの日のように抱きしめて」。ユダヤ人強制収容所から女性歌手が生還する。顔に大きな傷を負うが、形成外科で顔を作り直して、夫を捜す。やがて、彼女は、自分や自分の家族がナチスに捕まったのは、ドイツ人の夫の裏切りであることを知る。それでも夫が恋しくて、近づいていく。夫は彼女が妻と気づかないまま、妻の膨大な財産を得るために、「妻を演じてほしい」と頼む。はたして裏切りのなかに、真実の愛は見つかるのか。

 戦争というものは、人間の心をケモノにしてしまう。だが、どんなに非道な行ないをした人間も、平和な時代ならば、誠実でやさしい市民として生きることができたかもしれない。もし、戦争という時代に生まれていなかったら、もっと違う人生がありえたかもしれないと思うと、戦争の罪深さをあらためて感じる。

 戦後70年の今年、日本は大きな転換期に差し掛かっている。誰もが心の中にケモノを飼っているからこそ、しっかりと平和を守り続ける努力をしなければならない。

 戦争は一人ひとりの人生を変えてしまうが、そもそも人生は、戦争がなくても、思うようにはいかないものだ。そのことを痛感させてくれたのは、恋愛映画の「かけがえのない人」だ。「きみに読む物語」でデビューし、泣ける恋愛小説の騎手といわれるニコラス・スパークスの原作である。この映画も、また泣かせる。

 ある事件に巻き込まれ、すれ違ってしまった恋人同士。20年間、それぞれの人生を歩んできた二人が再会する。10代の燃えるような恋と、過ぎ去ってしまった日々が切ない。結果的に見れば、恋愛は成就しなかった。だからといって、その人生は虚しいとは言えない。

 このところ、「何のために生きるのか」と、青臭い自問を続けていたぼくだが、この映画を見て、人生に意味や答えなんてないと思えてきた。結果はどうあれ、何かに必死になり、生きている手ごたえを感じることができれば、それで十分なのではないか。ただ必要なのは、生きる覚悟だけだ。

 人生何度目かの曲がり角に立ち、これからどう生きたいのか、まだ答えは見つからない。しかし、映画館の暗闇は、そんなぼくをやさしく受け止めてくれた。もうしばらく映画館通いを続けながら、とことん悩むのも悪くないな、と思っている。

※週刊ポスト2015年9月25日・10月2日号


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