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NHK朝ドラ『まれ』 「ネット掲示板の盛況」が最大の功績か

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 このところヒット作が続いていたNHKの朝ドラ。今作はどうだったか。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。

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 9月も残すところ2週間と少し。半年間続いたNHK朝ドラ『まれ』の幕もいよいよ閉じようとしている。「長かった」。私個人の感想を書けば、その一言。

 これまでの朝ドラを振り返ってみても、これほど長く感じたことは無かった。主人公に感情移入するのが難しかったから? 多くの視聴者にとって『まれ』はどのように映ったのだろうか。

 世の中を見回すと、『あまちゃん』のような大ブームの気配はなさそう。『マッサン』の時のウイスキーに匹敵するような「輪島塗ブーム」も、残念ながら感じられない。能登半島を訪ねる観光客の数は以前に比べて増えているのかもしれないが。視聴率についても特筆すべきことはなく、20%台に乗らない回もかなりあったもよう。巷でドラマが大きな話題になったりする熱気も、感じることはほとんどなかった。

 むしろ目についたのは、辛口の感想や批評的な意見の数々。特に、一般の人たちが利用するネット上の掲示板などで日々増殖する、真正面からの真面目な不満。コストも手間もかかっているはずの公共放送の看板ドラマがなぜ? 私になりにその理由を考えてみると……。

●一般的な常識や生活習慣からの逸脱

 東京から能登へ夜逃げしてきたという主人公・希(土屋太鳳)の家族は、赤の他人の家に住み着く。希は目上の人にズケズケと意見し、父は深い反省もなく自己破産を繰り返し、弟はデイトレードを生業にするといった風に、ことごとく「公共放送の朝ドラらしくない」、逆バリのキャラクターや演出が目立った。

 ケーキ作りのシーンも注目を集めた。無造作にゴムでまとめた希のヘアスタイル、菓子作りの器具や食材の扱い。「ずさん」「清潔感がない」「食べ物を大切にしていない」と批判が。

 要するに、日本人がふだん何気なく守っている一般常識、礼儀や習慣といった「枠組」を(意図してか?)ハズしていく脚本と演出は、『まれ』というドラマの際立った個性だった。

●エピソードの未回収

 突然、誰かがやってきて騒動を起こして消えていく。その後どうなったのか、詳細を描くことなくもまた次の出来事……。そうした場当たり的エピソードの継ぎはぎと未回収が続いた。

 半年間という長丁場のドラマの、筋立てとしてはあまりに粗雑。唐突に差し込まれる物真似芸、他番組のパロディといったコント風の作りも、お笑い好きのウケを狙ったつもりかもしれないが、空回り。 

●職人や風土の描き方

 頑固でこだわりを持っているはずのベテラン塩田職人の仕事を、肉体も技能も鍛えず準備もしていない若者が思いつきのように継ぐ、といった斬新な展開に驚かされた。NHKでは珍しい、「職人仕事」の扱い方だった。

 メインテーマの「塗師」「パティシエ」といった専門業もしかり。仕事の描き方が表層的。たとえば半年間ドラマを見て「輪島塗」の歴史の奥深さやそこにしかない難しさ、沈金や蒔絵といった技巧など全体像はほとんど見えず。

 能登という土地・風土についても断片的に映るばかりで、特産品も独特の生活文化も地理も詳細には立ち上がってこなかった。

●主人公に対する共感ポイントが不足

 主人公の成長と変化についての描写は、いわば朝ドラの定番路線。それを存分に堪能できたドラマの代表格が『カーネーション』だったとすれば、今回の『まれ』はその対極。主人公の葛藤が伝わってこない。共感するポイントが少なくて感情移入が難しい。

 努力、失敗、悩み、喜びといったプロセスに関して細かな心理描写をはしょり、いきなり「成功しました」と結果を提示してみたり、突如数年後に飛躍したり。視聴者は置き去り。

 何と言っても、希の顔が象徴的。ドラマのスタート時と現在とを見比べて、ほとんど同じに見える。「変化」「成熟」を感じない驚き。それほど「主人公の成長物語」が実感しにくかった。 

……と、もしかしたら『まれ』がこんな風につっこみ所満載だったからこそ、「一言いいたい」人が続出したのだろう。普段ネットとの親和性が高いとは言えない中高年の視聴者をも巻き込んで、連日掲示板に感想が書き込まれ、多くの人が熱心に読んだのも、『まれ』のおかげ。

 幅広い年齢層に、ドラマに対するネット上の批評的習慣が根を下ろした。これがもし、体裁を整えた優等生ドラマだったら? こう盛り上がりはしなかったかも。

 私はこれまでのコラムで「ドラマは社会を映す鏡」と書いてきた。『まれ』の最大の功績とは、ネットを介した市民参加型をドラマの領域にも広め、ドラマ批評に多くの一般市民を動員したことだったのかもしれない。


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