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かけがえのない人生の1年間を描く〜椰月美智子『14歳の水平線』

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 プロ野球において開幕したばかりの頃とシリーズ終盤では同じ1勝でも重みが違って思えるように、14歳は人生の中でも特別かけがえのない1年間というイメージがないだろうか。もちろん個人差もあるし、たいていの場合はなんとかそこをくぐり抜けて成長していくものだとは思うが、そこで引っかかるとその後の順調な成長が難しくなるような1年間である気がする。

 桐山征人・44歳。加奈太・14歳。ふたり暮らしの親子である。征人は児童文学作家で、一般企業で働いていた妻とは1年ほど前に離婚した。加奈太は中学2年生で、がんばっていたサッカー部を辞めてしまい、成績も下降ぎみ。息子が部活を辞めていた事実を担任教師から知らされた征人は、最近加奈太ときちんと会話していなかったことを反省。自分の実家がある南の島へ加奈太を連れて行くことにする。

 祖母や父親の友人たちなど、自分以外の人間に対しては素直さを見せる加奈太に複雑な思いの征人。30年前、自分自身が14歳だった頃の記憶が甦り、感傷的な思いにひたる。一方、「中学2年生男子限定」キャンプに参加した加奈太は、メンバー同士のトラブルに遭遇しており…。

 物語は、現在の加奈太と征人、さらに14歳だった征人の視点で交互に語られる。現在の征人が自分の息子をこう形容する場面がある、「愚かで純粋で不器用で、常に怒りに満ちていて、自分だけの小さな正義の中で行き、傷つけられることに敏感で、世の中の何者をも味方につけられない、矛盾だらけの十四歳なのだ」と。しかし、それはそのまま30年前の征人自身を表す言葉でもある。6人のメンバーが真っ二つに分裂してしまうという状況に陥った加奈太と、昔から一緒に島で育った友だちと東京から引っ越してきた転校生の仲違いに気をもむ征人。両親の離婚に傷ついた加奈太と、寡黙な父親をいまひとつ理解できない征人。大人になった自分をまったく想像できない加奈太と、東京へ行きたいけれど将来の夢はまだ何もない征人。すべてがシンクロしているのだ。そしてこれはきっと、彼ら親子だけに当てはまることでもない。すべての14歳が友だちのこと、親子のこと、将来のことで悩んでいるだろう。大人や友だちの助けや忠告をどのように受け入れるかは自分次第、基本的には自らの力で進んでいくしかないのだ。

 それでも、友だちの存在はやはり大きい。同年代たちがどのようなことを考え行動しているか、親のいうことは反発なしに聞けなくても、友だちの言葉ならすんなりと心に響くものだ。そのためには相手としっかり向き合うしかない。加奈太も、そして30年前の征人も、その後の自分を支える友だちに出会うことができた。願わくば、すべての14歳が一生ものの友情を育めますように。そしてできることならみんなが成長したときに、かけがえのない38歳や53歳の1年間を過ごせますように。

 著者の椰月氏は、2002年に『十二歳』で第42回講談社児童文学新人賞を受賞。少年少女の気持ちをいきいきと描くことには定評があるが、44歳の征人のような大人の心情も丁寧に描写されている。驚かされたのはエッセイ集『ガミガミ女とスーダラ男』を読んだとき。リリカルさにあふれた作品を書く作家が、こんなに赤裸々トーク(というか、文章だけど)を…! やっぱ人間は多面性がないとね。次はどんな一面を見せていただけるのか、楽しみにしております。

(松井ゆかり)

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