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満月の夜に遭遇した、切ない修羅場

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ある月が綺麗な晩のことである。

「元カノとヨリを戻したいんだ。どうすれば良いと思う?」

友人との飲み会の席で、こんなことを打ち明けられた。

私は恋愛相談がすごく苦手なので、巧みに聞き流しては、今日が満月であることや満月の神秘性について語ったが、どうやら友人は真剣らしい。私がどんなに満月が偉大なことか熱弁したところで、一向に「元カノと寄りを戻す方法論」から話を変えるつもりはないようである。

友人曰く、元カノとはお互い小説が好きで付き合うことになった。だが、すれ違いがあって別れてしまったらしい。小さなボタンの掛け違いが気づかない内に、致命的なズレとなることは往々にしてある。失意の様子でそう語る彼は、いつもより小さく見えた。

そんなときだった。学生時代の同級生とばったり再会したのは。

正直言って、面倒だと思った。大して知った仲ではなかったし、そもそもそんなに人付き合いだって好きではないのである。軽く会釈するくらいで終わらそうと思っていたのだが、友人の様子がおかしい。そう、彼女こそ件の元カノだったのだ。事実は時に小説を超えてくる。

「久しぶり!なにしてるの?」

友人が少しうわずった声で、元カノに声をかけた。

先ほどとは違う凛々しい顔を取り繕っていたが、彼もきっと内心緊張しているのだろう。手足がカタカタと震えている。私は、若い二人の邪魔をしないよう駅のホームで黄色い線の内側と外側を交互に見るなど時間を潰すことにする。

だが次の瞬間、絶句することになった。電車に乗ったらこんなポゼッションになっていたからだ。

どういう意図でそうなったのか分からない。気づいたらこんな配置になっていたのである。

向かって左にはあまり話したことのない女性。対して、右側は全力で緊張する友人。そして、間に挟まれる全然関係ないこの私。

想像を絶する気まずさが3人を包み込んでいた。響き渡る空調の重低音、唾を飲み込む音すらも聞こえそうだ。

友人の気持ちはよく分かる。つい声をかけてしまったが、恐らく我慢の限界だったのだろう。私という物理的バッファがないことには、心の平穏が保てなかったに違いない。

ここは私が男気を見せるべき。直感的にそう思った。まず会話をして無音の状況を脱しなければならない。

共通した話題がなかったので、とりあえず天気の話で茶を濁す。「話題がないときは天気の話でもしろ」とNEVERまとめにまとめてあったからだ。

私「今日はすごく良い天気でしたね!」

彼女「そうですね」

私「・・・」

会話が終わった。

出鼻をボッキボキに折られたわけだが、ここで引き下がってはいられない。何故なら私には必殺トークがあるのだから。

そう、「満月」だ。

女性は月とか綺麗なものに弱い傾向がある。ちょうど車窓から満月が垣間見えたタイミングで、これでもかと間を置きながら

私「・・・月が綺麗ですね」

そうつぶやいた。

彼女「・・・」

私「・・・」

会話が、終わった。

私の尽力も虚しく、その後は世界のあらゆる静寂を敷き詰めたかのような以下の状況で、20分ほど電車に揺られて帰宅した。

別れ際、友人が私の方を一瞥し何かを言いかけたが、彼は何を想ったのだろう。

ふと空を見上げてみると今なお月が嬉々として輝いていた。それは憎々しいほど雄大で、今まで見たどんな月より綺麗だ。

「明日からも頑張ろう」そう心に決めて、家まで走り出した。

 

 

後日知ったのだが、「月が綺麗ですね」は夏目漱石が「I love you」を和訳した愛の告白らしい。

私がとんでもないタイミングでとんでもないことを口走ったものだから、あまりの気持ち悪さに

元カノが友人に相談→結果ヨリが戻った

とのこと。すっごい幸せだ。死にたい。

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