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上海リニア 鳥激突で窓にヒビも女性乗務員はスマホに興じる

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 中国に「リスクマネジメント」という言葉は存在しない。トップの責任が問われようものなら真相にフタをされる。2011年の高速列車追突事故では、事故車両が深い穴底に放り込まれた。このたび天津で発生した大規模爆発もそうだ。共産党の都合次第で事実はいくらでもねじ曲げられる。中国経済発展の象徴、リニアモーターカーでも、恐ろしい事態が起きていた。

 まずは写真をみてほしい。これは7月某日、営業運転中の上海リニアモーターカーの運転席を撮影したものである。

 亀裂が入っているのは、運転席のフロントガラスである。鳥などの飛行物が不意に接触した場合、こうした罅が入ることは「日本の鉄道列車でも起こりえる」(鉄道関係者)。

 しかし、異変が発見された場合、当然ながら緊急メンテナンスの対応がとられる。ここ上海では安全上、問題あるとは思われてはいないのだろうか。フロントガラスの異変に何の注意を払うことなく、20代後半と思しき女性乗務員は、手元のiPhoneに興じていた。それも走行中ずっと。

◆高速鉄道は中国の対外インフラ輸出の目玉商品

 実質的な運転は、彼女が行っているわけではない。遠隔操作の自動運転である。ただし、不慮のトラブルが起きた場合、監視役としての役割が問われるが、スマホ閲覧中の彼女にはとても期待できない。これが中国政府ご自慢の上海リニアの運行実態である。

 同線は2004年、世界初の営業用リニアとして開通した。技術はドイツから輸入し、最高時速は約430kmに達する。

 上海の“空の玄関口”浦東国際空港のターミナルビルから、約30km先の地下鉄駅を結ぶ。総工費は、およそ89億元(当時1335億円) だという。

 10分弱しかない運行時間を考えると乗車料金50元(約1000円)が高いか安いかは判定しづらい。が、これは採算性を度外視した中国の技術力を世界にアピールするための国家プロジェクトなのである。

「中国鉄道史上の大事件だ」

 列車を試乗した朱鎔基首相(当時)はこう高らかに謳い上げ、その先進性を国内外にアピールした。リニアや新幹線に代表される高速鉄道は、中国の対外インフラ輸出の目玉商品なのである。

 中国の高速鉄道の総延長距離は、既に日本の新幹線の5倍以上の距離を誇る。中国国内では主要路線が飽和しつつある。鉄鋼生産や車両製造を超過させないためにも、対外輸出を迫られている。

 その国家戦略は昨今、さらに顕著になりつつある。習近平国家主席や李克強首相は、アフリカや東南アジアなどを訪問するたびに、高速鉄道輸出の商談を行っている。

 そうしたトップセールスは、AIIB創設(*注)の動きと相俟って、インフラ輸出を成長戦略の一つに掲げる日本をも凌駕しつつある。

【*注/AIIB(アジアインフラ銀行)は、2015年末の業務開始を予定。発展途上国に対するインフラ輸出で主導権を取りたい中国の思惑が指摘されている】

 だが、中国はそうした「インフラ輸出国」に足る国なのかどうか。今回の写真は、車両メンテナンスの不備をはっきりと物語っていた。鉄道評論家の川島令三氏はこう分析する。

「上海リニアは、ドイツのトランスラピッド社から技術を提供され、開発されました。このころ、ドイツは官民あげてリニア事業の実用化を進めており、各国への技術提供も申し出ていました。しかし、当のドイツでは実用化前の2006年、実験線で事故が起こり、23人が死亡してしまう。

 さらにまた、リニアでは一般鉄道への乗り入れができません。EUでは国家を跨いだ往来が当たり前になるなか、需要が高まることはありませんでした。そして2011年、ドイツでの開発が終了した。結局、実用化を果たしたのは中国だけ。部品調達などの面でコストが上がり、メンテナンスにも影響が出ているのではないでしょうか」

◆上海リニアの地下は地盤沈下している

 さらに深刻なのが社員のモラルだ。前述のドイツの事故は、無人の遠隔操作によって運転中のリニアが前方走行中の作業車に時速200kmで衝突した。車両故障ではなく通信系統にトラブルがあったと報じられている。

 機械制御には誤作動が想定される。人的な監視も求められるが、写真に映る女性に、トラブルを収束する技術を求められそうもない。それは鉄道に限った話ではなく、〝上意下達〟の中国社会では無理もない。

 権力と情報は限られた共産党幹部にしか集まらず、末端の人間は何も知らず、そのツケだけを払わされる。このたびの天津大爆発で救助に駆けつけた消防隊が化学物質に放水し、更なる爆発を招いたのが分かりやすい例だろう。

 ちなみに上海リニアは、日本(JR東海)で開発が進むリニアとは違う方式を採用する。
 最大の違いは浮力にある。

「上海リニアの場合は、軌道と車両の間が1cm。一方の日本は10cm。これは日本の地理的な条件が考慮されている。多少の揺れや地盤の歪みが起こっても、地面との間隔に余裕があれば、安定して走行することができます」(川島氏)

 逆にいえば、上海リニアは地殻変動に弱い。長江の下流域に位置する上海は地盤が軟らかく、地盤沈下の影響も受けやすい。時を経れば経るほど、慎重な運用が求められる。

 最高時速430kmを掲げた上海リニアが、小誌取材時には300km程度に留まったのも、運行に不安を抱えているからに思える。

 他国にインフラを輸出するとなれば、「技術」とともに「安心」を提供する義務がある。日本がリニア開発を入念に行っているのも、命を預かる鉄道運行に、「万が一」があってはならないからだ。

 上海リニアに何が起こってもおかしくない。果たして中国指導部は、その軋みの音に気付いているだろうか。

※SAPIO2015年10月号


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