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文科省の大学改革 教養の軽視は大きな間違いだと大前研一氏

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 安倍政権が、大学改革でも大きな混乱を巻き起こしている。文部科学省が国立大学に対して「人文社会科学系や教員養成系の学部・大学院の組織廃止・転換」を通知したのだ。この教育改革には“致命的な欠陥”があると指摘する大前研一氏が、大学教育に求められる「リベラルアーツ(教養)」について解説する。

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 文部科学省は今年6月、国立大学法人に対し「社会に求められる人材」を育てるために「速やかな組織改革」を要求する通知を出した。その中で「とくに教員養成系や人文社会科学系の学部・大学院の組織廃止や社会的要請の高い分野への転換」を求めたことが大きな波紋を呼んでいる。

 欧米では、文学、哲学から歴史、地理、さらに美術や音楽に至るまで、基礎教養的な領域を学ぶ「リベラルアーツ(一般教養)」が、極めて重要視されている。たとえばアメリカには、レベルの高いリベラルアーツカレッジが中西部を中心にいくつもあり、そこを卒業していったん就職し、再び大学院に入ってMBA、弁護士、医者などの資格を取得する人が非常に多い。

 そして私の経験から言えば、グローバルな仕事をする時に最も役に立つのは(もちろん英語などの外国語ができることが前提だが)仕事に関する知識や議論する力よりも「幅広い基礎教養」である。ディナーなどの席で、その国や地域に関する歴史、地理、音楽、美術などについて豊かな会話ができる教養があれば一目置かれ、単なる仕事相手としてではなく、人間同士としての絆が深まるのだ。

 だから私は、文科省が今回のような通知を出した理由が全く理解できない。対象となった学部・大学院が「社会に求められる人材」を育てられていないとすれば、その原因はあくまで教育の「やり方と内容」であって、リベラルアーツとしての深さが足りないからだ。

 本来、リベラルアーツは教科書的な知識だけを問う学問ではない。歴史や地理を扱うにしても、それが現代とどうつながっているか、自分たちにとってどんな意味があるのかが問われる。

 もし私が教養課程を教える教授だったら、授業でこんな課題を出すだろう。

■中南米はスペインやポルトガルに征服されて長らく植民地支配を受けたが、今も多くのスペイン・ポルトガル企業が幅を利かせているのはなぜか? しばしば中国や韓国で批判される日本企業とどう違うのか?

■ジョージア(旧グルジア)やチェチェン共和国があるコーカサス地方はなぜ政治的に安定しないのか? その歴史や地政学的な意味からどう説明できるのか?

■世界中で人気がある村上春樹が、20世紀後半の日本で登場してきた背景には何があるのか? やはり海外で読まれている太宰治や三島由紀夫との違いは何か?

■アメリカ人歌手テイラー・スウィフトが、ツイッターで一言つぶやいただけで、アップル・ミュージックの戦略を引っくり返すことになったのはなぜなのか?

 そういった人文系の知識と現代の事象をつなぐような問いの答えを探っていくのも、広い意味でのリベラルアーツではないだろうか。むしろ日本人に欠けているのはリベラルアーツであり、それを軽視するのは大きな間違いだと思う。

※週刊ポスト2015年9月4日号


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