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「俺一人で日本のノワール小説を背負ってるんだ、くらいの覚悟で書いていた」――馳星周インタビュー(3)

「俺一人で日本のノワール小説を背負ってるんだ、くらいの覚悟で書いていた」――馳星周インタビュー(3)

 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 記念すべき第70回は、最新刊『アンタッチャブル』(毎日新聞出版/刊)が第153回直木賞の候補に挙げられた馳星周さんの登場です。
 『アンタッチャブル』は、緊迫感溢れる馳作品の中で異彩を放つコメディ。ユーモアのなかに潜んだ独自の皮肉や風刺が光り、『不夜城』、『漂流街』に次ぐ新しい代表作の雰囲気があります。
 この作品がどのようにできあがっていったのか。そして作家・馳星周はなぜこの作品で新しい「顔」を見せたのか。たっぷりと語っていただきました。注目の最終回です。

■「俺一人で日本のノワール小説を背負ってるんだ、くらいの覚悟で書いていた」
――ここからは普段の執筆についてお聞きしたいのですが、小説のアイデアというのはどういうところから生まれることが多いですか?

馳:『アンタッチャブル』の場合は、数年前から警察小説ブームっていうのがあって、僕のところにもあちこちから書いてくれという依頼があったというのがあります。でも、僕は天の邪鬼な性格なので、ただ刑事を主役にして、ということはやりたくなかった。だったら刑事警察じゃなくて公安警察を舞台にして、コメディにしてしまおうというアイデアから始まりました。
でも、小説のアイデアがどう生まれるかというのはその時その時でバラバラです。前作の『雪炎』は東日本大震災の前から取材していた原発についての情報をまとめたかったというのがありますし、新聞を読んでいて怒りを感じたことが題材になることもあります。

――馳さんといえば、小説家になる前からライターや編集者として出版に関わっていたことが知られていますが、なぜ小説を書こうと思われたのでしょうか。

馳:若い頃は小説家になろうと思ったことはなかったんです。人から面白いと思ってもらえるような小説を書く才能が自分にあるとは思えなかったし、小説家っていうのは職業でやってはダメだと思っていました。
昔、新宿のゴールデン街の「深夜プラス1」っていう、内藤陳さん(コメディアン・書評家)が経営していたバーで働いていたことがあって、そこに大沢在昌さんがよく来ていたんですけど、当時の大沢さんは全然売れていなくて、話を聞いているうちに「これはやってはいけないな」と(笑)。とにかくお金にならなくて、毎月本を出すくらいじゃないと食べていけないんです。当時そこに集まったお客さんで売れていたのは北方謙三さんくらいだったから、酔っ払ってはみんなで「北方なんてつまらない作家ばかり売れやがって!」とか愚痴るわけですよ。小説家になるとこういう人になるのかと思ったりね(笑)。
そんなことがあって小説家にはなっちゃいけないなと思っていたんですけど、その後ライターをやっているうちに、だんだん自分の「末路」が見えてきてしまったんですよね。
たとえば、40歳過ぎたあたりから一緒に仕事をしていた出版社の社員が出世していって、新しく若い奴が担当になると、口うるさいからといって年の行ったライターはだんだん使われなくなっていく。そういう未来図が見えていた。
そんな時に、一番稼がせてもらっていた雑誌が廃刊になってしまったんです。当時30歳手前になっていて、また一から営業活動して仕事をもらってくるのもしんどいし、このままライターを続けていても先が見えているという状況でした。それなら、モノになるかはわからないけど、物を書く仕事で一番自分が納得できる「小説」で勝負してみようと思って「不夜城」を書き始めたんです。

――子どもの頃から本はたくさん読まれていたんですか?

馳:そうですね。本当に幼い時は絵本だったんですけど、小学生の時に星新一さんのショートショートにはまって、そこから筒井康隆さんだとか小松左京さん、平井和正さん、田中光二さんのようなSF小説を読むようになりました。
平井さんや田中さんが本のあとがきで「レイモンド・チャンドラーがおもしろい」とか「アリステア・マクリーンがおもしろい」というようなことを書いていたからそれを読んでみて、ハードボイルドや冒険小説に入っていくという流れですかね。

――そういった読書の蓄積がデビュー作であり大ベストセラーになった『不夜城』に結実した。

馳:そう思います。『不夜城』は、それ以前のハードボイルド小説へのアンチテーゼとして書きたいと思っていましたし、当時アメリカで出てきたノワールを日本でもやりたいという思いもありました。文章からなにから、それまでに読んできたものの中から抽出したものだといえると思います。
今読み返すと下手だなと思うんですけど、熱気はありますね。あの熱気は当時じゃないと書けなかったものですから。

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