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「いつも辛い」甲子園優勝投手 最後に見せた渾身のジョーク

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 夏の甲子園は20日、東海大相模の優勝で幕を閉じた。観客動員数は86万2000人で昨年より9000人増える盛り上がりを見せた。現地で取材を続けていたフリーライター・神田憲行氏が「忘れられない光景」をふり返る。

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 今年の甲子園で初っぱなからファンの胸を熱くさせてくれたのが、王貞治さんの始球式だった。王さんはその記録だけでなく、人柄でも野球記者たちから尊敬を集めていて、記者席でも食い入るように息を潜めて見つめていた記者たちの姿があちこちにあって(私もそのひとりだ)、印象的だった。

 1回戦で最大の番狂わせ、といったら失礼だが、下馬評を覆す結果となったのが、智弁和歌山を破った津商業だろう。智弁和歌山の7失策という自滅の部分もあるが、満塁でランナーが一斉に走り出すヒットエンドランは初めて見た。奔放な野球の魅力たっぷりだった。

 メディアの注目は早稲田実業の清宮幸太郎選手に集中していたが、球場の観客の拍手は、むしろ関東一のオコエ瑠偉選手の方が大きかったのではないかと思う。初戦の初打席、一塁強襲内野安打を二塁打、さらに1イニングで三塁打を2本も放って、前評判通りの走力を証明した。塁間を大股で、低空で滑降するような走りだった。

 私はオコエ選手について勝手に「チーター」みたいな選手を想像していたのだが、実際に取材で会ってみると、隆々たる筋肉で、これは「虎」だと感じた。あ、だからといってタイガース入りを勧めているわけではありません。

 大会の旋風となったのが、早稲田実業だろう。今だからいうが、記者仲間の間では「とても西東京大会を勝ち抜けないだろう」という意見が支配的だった。それが甲子園でも戦うごとに強くなっていった。西東京大会では14個もあった失策が準々決勝ではついに無失策になり、とくにショート金子銀佑選手の守備は華麗で、打球が飛ぶのが楽しみだった。典型的な「甲子園で強くなった」チームだろう。

 ある試合後の取材で、和泉実監督が「ハラハラドキドキ。見ているとこのチームは面白いよねえ」と眼を細めていたのも印象的だった。

 毎試合後の取材で同じことを言い続けたのが、東海大相模の門馬敬治監督だ。それは「想定内」。ちょっと古くさい流行語だが、ようは試合中になにが起きても動じない心構えをしていた、ということなのだろう。サヨナラ勝ちした準々決勝の花咲徳栄戦のあとでさえ、「想定内でしたっ」と言い切った。それが決勝戦、小笠原慎之介投手のホームランに初めて「想定外」と発言した。

 門馬監督は神奈川大会の決勝で優秀したあと、恒例となっているグラウンドでの胴上げをせずに引き上げた。恐らく勇退が決まった対戦相手の横浜・渡辺元智監督に譲ったと思われる。夏の甲子園で優勝したときの胴上げが、今夏初めて門馬監督が味わう感激の瞬間だった。こういう「粋」が見られるのも、高校野球の醍醐味である。

 それにしても、東海大相模のエース小笠原投手には、試合前の取材で驚かされた。

「自分は野球を楽しんでやったことがないので、この試合も楽しんでやれないと思います」

 と言い出したのである。「楽しむ」とはどの選手もいう当たり前の台詞だ。「楽しめない」と言い出した選手は小笠原投手以外に記憶がない。

「日本一を目指して辛い思いをしてきたので、楽しい試合は1度もない。いつも苦しい試合でした」

 笑顔も滅多に見せず、ときに朗らかな表情を見せるチームメイトの吉田凌投手と好対照だった。

 決勝戦、仙台育英が小笠原投手に4連打を浴びせて3点を奪うと、タオルをくるくる回す独特の応援スタイルが一塁側仙台育英アルプスから一塁側内野席、バックネット裏へと広がっていく。さらに6回、三塁打でついに仙台育英が同点に追いつくと、三塁側の東海大相模アルプス以外、三塁側内野席、さらに外野席までタオルが回っているのが見えた。

「いつも辛いです」

 小笠原投手の声が私の耳朶に蘇り、見ていて辛かった。

 双眼鏡でマウンドの様子を伺うと、いつもの表情の無い顔がそこにいた。だが内心は「違和感がありました。投げづらかった」という。また、ビデオで見た5年前の興南との決勝戦を思い出していたという。あの試合も興南を応援する赤で球場は一色になっていた。

「なんでいつも東海大相模はアウェーなんだろう」

 小笠原投手は、「誰もいないバックスクリーンを見て」、心を静めたという。

 だが9回、自らのバットでホームランを打ちダイヤモンドを回っているとき、二塁を回ったところで両手の拳を固め、笑顔になっていた。

 試合後に報道陣の前に現れた小笠原投手に、私が「この試合は楽しめましたか」と質問すると、「そうですね」と微笑んだ。

「試合前に疲れは感じなかったのですが、いまどっと疲れが来ています」

--どこにですか?

「精神的に」

 小笠原投手の渾身の、恐らく唯一のジョークに報道陣はどっと湧いた。が、今ふり返ると、あれは冗談に隠した彼の本心だったのではないかと思っている。


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