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連載小説を同時に5本……人気作家の生活――馳星周インタビュー(2)

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 記念すべき第70回は、最新刊『アンタッチャブル』(毎日新聞出版/刊)が第153回直木賞の候補に挙げられた馳星周さんの登場です。
 『アンタッチャブル』は、緊迫感溢れる馳作品の中で異彩を放つコメディ。ユーモアのなかに潜んだ独自の皮肉や風刺が光り、『不夜城』、『漂流街』に次ぐ新しい代表作の雰囲気があります。
 この作品がどのようにできあがっていったのか。そして作家・馳星周はなぜこの作品で新しい「顔」を見せたのか。たっぷりと語っていただきました。

■連載小説を同時に5本……人気作家の生活
――この作品は警察のなかでも「公安警察」が舞台になっていますが、これには何か理由があったのでしょうか?

馳:公安警察といえば諜報活動が欠かせません。でも、諜報戦っていうのはやっている当人は大まじめであっても、傍から見るとまぬけだったりするんですよ。
最初にコメディを書こうとなった時に、そのまぬけさや滑稽さは使えるなと思ったんです。

――確かに、スパイの疑いがある登場人物の「点検作業(尾行がついていないかどうかをさりげなく確認する作業)」に振り回される捜査員はかなり滑稽でしたし、椿とその部下を見張るために公安警察同士でスパイ合戦になっていくのはコミカルでした。

馳:右手のやっていることを左手は知らない、みたいなことですよね。日本の警察は部署同士で手柄の取り合いですから、こういうことはよくあるんです。

――尾行の描写は特にリアルでしたが、この「点検作業」というのは本当にあるものなのでしょうか?

馳:直接公安の警察官に取材したわけではないのですが、活字資料を読む限り公安警察官を育成する学校が昔あって、そこでは点検作業を見破る教育だとか、犯罪者やスパイの疑いがある人物の面識率を高める教育がカリキュラムに入っていたようです。

――そしてラストは衝撃的でした。この終わり方は執筆時から計画されていたのでしょうか。

馳:いえ、自分でもこんなラストになったかと驚いたくらいです(笑)。
基本的に僕はきっちりプロットに沿って進むタイプじゃなくて、書きながら先のストーリーを考えていきます。今回の小説は週刊誌で連載していたということもあって「こう書いておけば後の伏線になるかな」くらいの感じで書いていたんですけど、最後でうまくまとまりました。

――まとまらないこともあるんですか?

馳:そういう時は連載が終わって書籍化する段階で直します。大体は回収できなかった伏線ごと消すとか。

――週刊誌連載で先の展開を準備せずに、書きながら考えるというのはかなり綱渡りなんじゃないかという気がします。

馳:そんなこともないですよ(笑)。「サンデー毎日」で今回の『アンタッチャブル』を連載しながら、別の作品も並行して書いていたんですけど、毎週の15枚ずつ原稿を仕上げて担当編集者に渡した瞬間に頭が別の小説の方に切り替わって、また締切が近づくと『アンタッチャブル』に戻る。目の前の原稿に向かっている時だけしかその小説のことは考えないんです。その時に書きながら先の展開を考えるという感じですね。

――ちなみに、同時に何本くらいの小説を進められるものなんですか?

馳:一番多かったのは5本です。週刊誌連載4本と新聞連載1本でした。新聞連載は月曜から金曜まで毎日締切があるんですけど、ある日原稿を渡したら編集者から電話がかかってきて「今まで出てきたことがない登場人物が突然出てきた」と(笑)。別の小説の登場人物をまちがって書いてしまったわけです。さすがにその状態は続かなくて、1年くらいで肺炎になって倒れましたね。30代だったからできたことだと思います。

第3回 「俺一人で日本のノワール小説を背負ってるんだ、くらいの覚悟で書いていた」 につづく


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