「青空文庫」が存続の危機?TPP交渉で揺れる著作権

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「青空文庫」が存続の危機?TPP交渉で揺れる著作権

著作権が切れた文学作品1万点以上を公開している「青空文庫」

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉など、何かと話題の著作権。言うまでもなく、他人の著作物を無断でコピーして商業的に利用することは許されません。これは著作権として複製権(勝手に複製されない権利)などがあるからです。しかし、著作権は永遠に存続するものではありません。

そして、その制度を利用したのがウェブサイトの「青空文庫」です。簡単に言えば、日本国内で著作権が切れた文学作品のテキストを公開しているネット上の図書館です。明治から昭和初期までに活躍した作家の作品が多く、現在、1万点以上の作品を無料で読むことができます。しかし今、その「青空文庫」が危機にさらされています。今回はその問題を取り上げます。

著作権の保護期間は基本的には著作者の死後50年

もし、「源氏物語」の現代語訳をつくって本を出版して利益をあげても、紫式部やその子孫に著作権料を支払う必要はありません。バッハの「G線上のアリア」を演奏会で弾いても、バッハの子孫に著作権料を支払う必要はありません。しかし「もう亡くなっているから」「昔の人だから勝手に使ってもよいだろう」ということにはなりません。どこがその境目になるのか、それは基本的には著作者の死後50年です。ただし、計算上は没年の大晦日に亡くなったものとして扱います。

例えば、江戸川乱歩は1965年7月28日に亡くなりました。谷崎潤一郎はその2日後の7月30日に亡くなっています。暦上はちょうど死後50年経ったわけですが、この二人の作品の著作権は、すべて今年の12月31日の24時で切れることになります。

著作権が存続するというのはどういうことか。それは勝手に複製して販売したり、ドラマ化したりすることはできず、そうするためには、著作権者の許諾を得る必要があるということです。一般的にはそこで金銭の授受があるでしょう。つまり、経済的価値があるわけです。著作者が生前に著作権(やその一部)を出版社などに売ることもできますから、著作者の死後の著作権者とは、著作者の相続人やこうした出版社などです。

米国や欧州では著作者の死後70年に延長

さて、「著作権は著作者の死後50年まで」といっても、現在、これは全世界共通ではありません。実は米国でも、かつてはざっくり言って著作権の保護期間は著作者の死後50年まででしたが(ただし、発表年等の規準もあり)、それが死後70年までに延長され、その後、カナダや欧州でも同じく死後70年に延長され、現状では死後50年の国、70年の国に世界の大勢はおおむね二分されています。

日本でも映画の著作物に関しては、2004年に公表後70年までとなりました。そして、TPPでは、映画以外についても米国基準を押し付けられる懸念が高まっています。これが「青空文庫」に及ぶ可能性がある「危機」なのです。

著作権存続により作品が世間に触れる機会が断たれてしまう

確かにコンテンツが産業上も重要である現代、「著作権を長期間活用しよう」という動きはわからないでもありません。ただ、死後70年が妥当なのか。多くの作品では、著作者の死後数十年も経つと著作権処理が大変です。単純に相続されたとしても著作者の子、孫、ひ孫の世代、その全員の共有になるためその全員を探し当て、許諾を得るコストは半端ではありません。

「青空文庫」のようなボランティア機構で、著作者の死後、著作権の存続期間中にこうした権利問題をクリアするのはほぼ不可能でしょうし、商業的サービスでもメジャーな作品以外は相当困難でしょう。つまり、著作権が存続するがゆえに作品が世間に触れる機会が断たれてしまいます。その期間が70年になるわけです。

また、そもそも作者の死後70年まで売れ続ける作品は数えるほどしかありません。つまり、著作権の存続期間の延長とは、実際には大多数の作品を犠牲にして、ごく限られた著作物について著作者の相続人や出版社等に死後70年も経済的利益を与え続ける仕組みなのです。ぜひ慎重に考えてもらいたいものです。

(小澤 信彦/弁理士)

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