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心を揺さぶられる部活小説〜額賀澪『屋上のウインドノーツ』

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 あまりぱっとしない学生時代を送っていた反動か、あるいは加齢とともに順応性が身についてきたせいか、若い頃より現在の方が断然生きやすいと感じている。それでも年に数回ほど、「ああ、こんなキラキラした毎日を過ごしたかった!」と心をぐらぐらと揺さぶられる本に出会うことがある。『屋上のウインドノーツ』はまさにそんな本だった。

 そういった本はたいてい部活小説だ。運動部にも文化部にも所属したことがあり、そのときはそれなりに楽しくやっていたつもりだが、もっともっと、自分の力の限界まで打ち込んでみればよかったと胸が痛む。本書に出てくる吹奏楽部員たちはみんなほんとうにがんばっている。特に、部長の日向寺大志。音楽が好きで、目標へ向かって突き進むまっすぐさがあって、部員たちへの思いやりも持っている、部長の鑑のような男子。高校時代にこんな男子と出会っていたら確実に好きになっちゃうな(「年上にしか興味はない」らしいから、今なら勝機ある! いや、ないが)。

 そんな大志が並々ならぬ熱意を持って吹奏楽部へ勧誘したのが、この本のもうひとりの主人公である給前志音だ。志音は引っ込み思案で、友だちと呼べるような子は幼なじみの瑠璃ちゃんしかいなかった。瑠璃ちゃんはかわいくて面倒見がよくていつもみんなの中心にいるような女の子。しかし瑠璃ちゃんが自分のことを気に懸けてなかよしグループに入れてくれることさえつらくて、中高一貫校に通っていたにもかかわらず志音はあえて公立の高校に進学した。とはいえ新しい環境にもなじめずにひとり屋上でエアドラムを叩いていた彼女を、打楽器パートができる部員を探し求めていた大志が見つけた…。

 大志は大志で、中学時代に周囲から孤立してしまった経験を持つ。それでも彼は、志音にともに何かを作り上げる喜びを教えることができた。そして志音も大志の呼びかけに応えることができた。こんな話は夢物語だ、誰もがこんな運命の出会いを果たせるわけではない、と反発する読者もいるだろう。その通り、こんなに世界が大きく変わることはめったにあることではない。でも、家の中に閉じこもっていたら可能性は0だ。外へ出て、誰かに手を差しのべたり差しのべられたりする勇気を持てたら、わずかでも状況は好転していくものではないだろうか(身の危険を感じるようないじめに遭っているような場合は別だけれど)。助けられてばかりではなく、自分が誰かの力になれるかもしれないのだ。

 前々回のこのコーナーでは同じ著者の『ヒトリコ』(小学館)を紹介した(よろしければバックナンバー http://www.webdoku.jp/newshz/matsui/2015/08/05/170120.html をお読みになってみてください)。いずれの作品においても、ほんとうにいやな人間というのはほとんど出てこない。現実にはそう簡単に割り切れるものではないが、嫌いだという気持ちしか持てない間は相手の美点は決して見えてこないということだろう。本書において、志音が瑠璃ちゃんの取り巻きのひとりである海東さんと差し向かいでお茶を飲むという、短いけれど印象に残るシーンがある。志音は過去の自分の未熟さを認め、そのことを素直に海東さんに語る。志音も立派だし、海東さんも潔かった。自らの至らなさを受け入れ、他人に対してよけいなガードなしに接する。たったこれだけのことが、若いうちにはどうして難しいのだろうか。でも、それを軽やかにやってのけるのが大志だ。彼がいたから志音は変われたし、部員たちは大きな目標に向かってがんばれた。残念ながらすべての部活(あるいは学校、あるいは会社、などなどどんな組織でも)にこんな先輩がいて引っぱってくれるわけではない。だったら、自分が大志みたいに生きられるよう努力していけたらいい。いきなりは無理でも少しずつ、志音のように。そうやって前に進んでいくことこそが大切なことだと思うから。

 本書は第22回松本清張賞を受賞している。ごりごりのミステリーに与えられる賞というイメージがあったが(実際、第10回までは「推理小説または歴史・時代小説」というくくりがあったようだが)、「ジャンルを問わない、良質の長篇エンターテインメント小説」が対象なのだそうだ。なんにせよ、この作品が見出されたことは喜ばしい。重厚なご自身のキャラクターとさわやかな本書の作風に、清張先生もギャップ萌えを感じておられるだろうかと思うと愉快な気持ちになってくる(もしかしたら、先生のセルフイメージは”さわやか”だったかもしれませんけど…)。

(松井ゆかり)

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