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就活売り手市場化で内定バブルの様相も喜ぶのは早計という話

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 就活はバブル期のような「売り手市場」だという。だが学生や保護者が喜ぶのは甘い。千葉商科大学国際教養学部専任講師の常見陽平氏が警鐘を鳴らす。

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 2016年4月入社の大卒者の採用活動が盛り上がりを見せています。今年の就活の話題と言えば、なんと言っても「就活時期の繰り下げ(採用広報活動開始が大学3年生の12月→4年生になる前の3月に、採用選考活動が4年生の4月→8月に繰り下げ)」と「オワハラ(就活終わらせろハラスメント)」ですが、「売り手市場化」も忘れてはいけません。

 学生にとっては景気の良い話のようですが、この局面で入社し、社会に出るというのは実は慎重に考えないといけないことがいくつかあります。売り手市場の罠について考えてみましょう。

 まずはデータを見てみましょう。リクルートワークス研究所が4月に発表している「大卒求人倍率調査」では、求人倍率は1.73倍であり、前年の1.61倍より+0.12ポイント上昇しています。全国の民間企業の求人総数は、前年の68.3万人から71.9万人へと3.6万人増加しています。学生の民間企業就職希望者は、前年の42.3万人とほぼ同じ41.7万人でした。2011年卒から2014年卒までの4年間は1.2倍台で推移していましたから、回復傾向だと言えます。

 もっとも、この1.73倍という売り手市場と言って間違いない数字ですが、新卒採用の現場と日々向き合っている採用担当者、大学教職員、就職情報会社関係者は「実態は違うのでは?」とクビを傾げるかもしれません。そう、このデータはあくまで春に行った調査を元にした予測値であり、就活・採用戦線がスタートしたあとは上方にも下方にもブレる可能性があるのです。

 2016年度新卒採用で言うならば、就活時期繰り下げが行われたのですが、最初から予想されていたように、「選考開始は8月」だというタテマエのスケジュールどおりにはなりませんでした。新卒向け就職ナビサイト「リクナビ」を運営する株式会社リクルートキャリアの研究機関・就職みらい研究所が発表した「2015年7月度 就職内定状況(2016年卒)」【確報版】によると、5月1日の時点で20.7%、6月1日の時点で34.5%、7月1日の時点で49.6%となっていました。

 ただ、経団連企業など大手企業は8月1日の選考解禁を遵守の姿勢を見せておりました(実際には、内定を暗示させて囲い込み、この日に出したりはしているのですが)。あとで他社に取られる、内定辞退のリスクを考えて内定を多めに出している企業も散見されます。

 そのため、6月、7月時点で4〜6社の内定を持っている学生と今年はよく遭遇しました。このような学生はこれらの内定を「キープ」「保険」というように呼び、「就活休み(これも今年、頻出したキーワードです)」を経て、「本命」の選考に備えるのです。

 このように、内定出しの状況は元々の採用計画よりも上振れ、膨張している印象があります。バブルと言っても良い印象です。もっとも、内定を連発しているのは、必ずしも人気のある企業ではないのですが。

 リーマン・ショック以降「就職氷河期再来」という言葉がメディアでよく話題になっていただけに、学生やその保護者にとっては嬉しい話のように聞こえることでしょう。

 でも、ちょっと待ってください。このような「売り手市場」「バブル」の局面は、必ずしも学生にとって嬉しいものではないのですよ。

 景気は循環します(このあたりを詳しく語りだすと長くなるのですが、ここではざっくり、こう言います)。採用時にいい想いをしても、その後、悪くなる時がやってくるわけです。入社して、仕事に慣れてきた頃に景気が悪くなり、仕事をする環境が辛くなる上に、会社が合わなくて転職したいと思ったら中途採用の求人が少ないということが起こり得るわけです。

 人材紹介会社経由で転職しようとする場合、キャリアカウンセラーは「売り手市場で世に出た人は、考えが甘い」と敬遠する場合もあります。そう、彼らの経験則でありますが、この時期に社会に出た人は考えが甘い、能力が怪しいということもよくあるとのこと。

 また、この局面は就活も採用活動も雑になることがあるのですね。前出のリクルートキャリアのデータを詳しく読むと、採用広報活動開始から4カ月目時点の比較をすると、ここでの就職内定率は2014年卒4.5%、2015年卒5.5%、2016年卒34.5%となっていて、今年度は突出して高いわけです。

 就活を始めたばかりの学生にこれだけ内定が出ている年はこの10年くらいでは無いと言っていいでしょう。最終的に行く1社は後で内定が出た会社だとしても、業界・企業研究不足のまま、考えも固まらないまま内定が出ているという可能性は否定できません。

 さらに、この局面は、求人広告をつくる就職情報会社も雑になっている可能性があるのです。このような局面においては、就職情報会社自体が新卒採用・中途採用を強化し、営業担当者を増やします。人材ビジネスに慣れていない、新米の営業担当者が顧客に営業し、求人広告作りに関わるわけです。いくらその上の管理職などが品質を担保しようとしても、雑になる可能性はあるわけです。

 逆に、求人環境が悪い時期に社会に出た人は、考えが大人になっている、社会の厳しさを知っている、その後、景気が良くなる(ことが期待される)ので仕事がやりやすくなる、転職もしやすくなるなどのメリットがあるのですね。就活中は、本人はそんなことを考える余裕がないとは思いますが。また、厳しい時期に社会に出た層から社長が出ていたりするのですよね。

 というわけで、内定がいくら出たところで、こういう時期こそ浮かれてはいけないのです。もちろん、売り手市場か買い手市場かを学生は決めることができません(まあ、大学院進学、留学などで社会に出る時期を遅らせることは可能ではありますが)。入社する1社を決める前に、今一度、業界・企業研究をしておきましょう。

 業界内でのポジションを再確認する、5カ年計画を比較する、社風が合ってそうかを考える、一生勤めても数年でやめるにしてもそこで働いて得られるものを考える、この人たちと働きたいと思うかどうかなど、諸々考えましょう。

 売り手市場も楽ではないというお話でした。


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