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戦後70年・今だから見ておきたい「戦争」アニメ

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今年、2015年は戦後70年。「終戦」の定義は様々あり、日本では玉音放送のあった8月15日ですが、諸外国の多くは戦艦ミズーリ艦上で降伏文書の調印式が行われた9月2日を終戦の日としています(サンフランシスコ講和条約の調印・発効をもって正式な「戦争の終結」とする考え方もあります)。

【関連:1945年8月19日、満州から妻を同乗させ飛び立った特攻兵がいた。】

降伏文書の調印式では、最後に連合国軍(アメリカ軍)の大編隊による航過飛行が行われましたが、ついこの間まで同じ飛行機によって攻撃されていた市民の目には、この編隊飛行はどのように映っていたのでしょうか。

さて、この戦争は映像メディアが本格的に活用された戦争といえます。各国で戦意高揚を目的とした様々なプロパガンダ映画が製作されました。当然ながら、その中にはアニメもあります。これらアニメを目にする機会はほとんどありませんが、ここでいくつかの作品をご紹介しましょう。

アニメというのは、プロパガンダには非常に適した表現手法です。その特徴は

◆実写と違って省略表現ができるので、主張を明確化・単純化できる
◆生身の役者が画面に登場しないので、生々しさが薄れる
◆大きく誇張表現ができる

など。実写に較べて余計な情報を排除し、表現に集中させることができるので、主張したいことをイメージとしてより強く・解りやすく伝えられる訳です。解りやすさは、様々な層へ主張を届けることも可能になりますから、この点で非常に優れているのです。それでは、各国で制作されたプロパガンダアニメを見てみましょう。

■日本
日本で作られた戦意高揚アニメといえば『桃太郎の海鷲』や『桃太郎 海の神兵』が有名ですが、ここでは同じ海軍省の協力により制作された『フクチヤンの潜水艦』をご紹介しましょう。1944年に公開された、横山隆一のキャラクター、フクちゃんを主人公にした作品です。

ストーリーは、フクちゃん乗り組む潜水艦イ1が、はるばる太平洋を横断してアメリカ本土を砲撃しますが、この際にアメリカ空母機動部隊の反撃を受けます。南洋の泊地で船体を修復し、補給を受けた後、その空母を魚雷で撃沈して日本へ帰還する……というもの。主題歌は古関裕而作曲、劇中歌「潜水艦の台所」は古川緑波が歌っています。

注目されるのは、潜水艦の運用・戦闘の描写が非常に細かく、リアルなこと。砲の取り扱いや魚雷装填・発射の手順、敷設された対潜水艦網を突破する様子や潜水艦での生活など、ここまで表現しているのは、海外の実写映画でもそうはありません。かなり詳細に取材したことがうかがえます。攻撃する艦番号13の空母も、実際の空母フランクリン(CV-13)のような形になっており、ここでも海軍からの資料提供があったことがうかがえます。実際のイ1は、この作品が公開される前年の1943年1月に戦没しました。

ストーリーも荒唐無稽に思われるかもしれませんが、実際にイ1などの巡洋潜水艦(巡潜)は太平洋を横断し、アメリカ西海岸で作戦行動をとって帰還できるほどの長大な航続距離を持っており、巡潜乙型のイ19、イ25、イ26などはアメリカやカナダ本土を砲撃し、イ25は搭載した飛行機で史上唯一のアメリカ本土爆撃も行いました。この他にも日本の潜水艦は、アメリカ西海岸で通商破壊作戦や偵察任務に従事しています。

また、国によるプロパガンダ作品ではありませんが『オモチヤ箱シリーズ第3話・絵本1936年』では、南洋の島(当時日本の信託統治領だったどこか)を、ミッキーマウスに“そっくりな悪いネズミ”が「島を明け渡せ」と侵略し、桃太郎や浦島太郎、金太郎や一寸法師など日本昔話のキャラが島を防衛して撃退する話が描かれており、この当時から市民レベルで日米関係が悪化していることがうかがえます。島の住人である黒ネコ、どう見てもフィリックス・ザ・キャットにしか見えませんが……。シマ柄のネコのようなネズミのようなキャラは「張子のトラ」ですが、何かを揶揄している存在なのかは判りません。

■ドイツ

ミッキーマウスは「アメリカの象徴」と見られていたらしく、ドイツでもミッキーマウスやドナルドダックといったディズニーキャラやポパイが、ドイツ占領下のフランスを爆撃して焦土と化すアニメを制作しています。これは「連合国は嘘つきだ」という話ですね。

■ギリシャ

ギリシャは連合国の一員として、イタリアなどの枢軸国と戦いました。これはその「ギリシャ・イタリア戦争」を描いた1940年の『ギリシャ人だから』という作品。ギリシャにおける最初期のアニメです。

■ソ連

アニメ好きの間では「ソ連はアニメ大国」という認識があります。そしてソ連といえばプロパガンダというイメージも強いでしょう。第二次大戦中は数多くのプロパガンダアニメが作られました。特に対ドイツ戦を意識した作品が多く、ヒトラーは「キャラが立った」人物であることから、様々に描かれています。サーカスを題材にした作品では、主導権を取っているのはドイツで、イタリアなどはそれに従う犬だ、という表現がされています。

こちらは、侵攻してきたドイツ兵と戦う市民たちを描いた作品。

1941年、独ソ戦のさなかに作られた勇ましい作品。

■イギリス

ロシア系アメリカ人の人形アニメ作家、ルー・ブーニンがイギリスで制作した1943年の作品『Bury the Axis』は、非常に美しい作品です。日本人の誇張表現である「めがね、出っ歯、カメラの3点セット」も登場します。

■アメリカ

これらのアニメで、質・量とも圧倒的なのがアメリカです。ディズニーやワーナーなど、名だたるアニメスタジオが人気キャラを使って様々な作品を制作しています。

まずはディズニーの作品。ナチスドイツの恐ろしさを描いたものです。

こちらは、ナチ協力者になったドナルドダックを主人公に、ナチスの理不尽さを訴える内容。夢オチで「ああ、アメリカっていいな」という話です。

ワーナーの人気アニメーションシリーズ「ルーニー・テューンズ」の一編。アヒルの独裁者『The Ducktators』。ヒトラーのキャラが立っているせいで、ちょびヒゲと前髪をつけただけでそれと判ってしまいます。

アメリカの場合、ドイツだけでなく日本を相手にした作品も非常に多いのが特徴です。まずはスーパーマンが日本の秘密爆撃機をやっつけ、危機から救うというお話。基本的にどの作品でも、日本人は「めがねをかけた出っ歯」というキャラです。この表現は戦後の実写映画『ティファニーで朝食を』でも見られますね。

ドナルドダックがコマンド作戦で落下傘降下し、日本軍と戦う作品。

1943年に作られたルーニー・テューンズのこの作品、冒頭に登場するニワトリは「日本ニュース」のパロディ。何か針を刺しあって、警報の「ウー!」という音を出していますが、これは「ハリ治療」をパロディ化したものと考えられます。数々の人種差別的表現も出てきます。

もともと「水兵」という設定のポパイは、いつもの調子で展開されるストーリーが、日本との戦争になっています。

一応、これまでの作品は「民間作品」という位置付けです。政府の要望により作られた作品も数多くあります。これはバッグス・バニーが「お国の為、戦時国債を買いましょう」と呼びかけるもの。

農務省が制作した、アメリカの農作物が戦線で戦う兵士を支えている、とアピールする作品。

海軍が制作した、日本による連合国軍向けプロパガンダ放送「東京ローズ」をパロディ化した作品。

また、アメリカ軍では兵士に対するマニュアルを周知する目的でもアニメを利用しました。

こちらはボーイズ対戦車ライフル(『ストライクウィッチーズ』でリーネが使用している銃のモデル)の使用マニュアル。ディズニーが制作した、実写とアニメを組み合わせた作品です。

海軍が海兵隊の兵士向けに制作した、戦場における食料と水について「うかつに現地のものを口にするな」と警告する作品。

陸軍では『Private SNAFU』という、新兵に軍隊での基礎的な心構えを教育する為のシリーズが制作されました。Privateは兵隊の意、SNAFUとは「Situation Normal, All Fucked Up(いつもの通り、ろくでもない状況)」という、戦場での混乱した状態を表す軍隊でのスラングです。作中では「Fuck」が不穏当なので、一瞬の間の後「Fouled」と言いかえていますね。ワーナー、ディズニーなど複数のアニメスタジオで共同制作されました。この作品には『或る夜の出来事』や『素晴らしき哉、人生!』の監督で知られるフランク・キャプラが、キャラクター原案などで大きく関わっています。

これは「情報が筒抜けになるから手紙を検閲します」という『Censored』という1944年7月の作品。

また、南太平洋戦線で兵士たちに蔓延したマラリアに気をつけようという作品(1944年3月)。

この他にも、ディズニーで『白雪姫』、『ピノキオ』、『ファンタジア』、『ダンボ』などの作品で撮影監督を務めたロバート・キャリー・ブロートン(ボブ・ブロートン)は、戦時中CIAの前身であるOSSに参加し、同じくOSSに参加していたジョン・フォードと行動を共にして、ミッドウェイ海戦を記録したフォード監督作品『THE BATTLE of MIDWAY』(1942年アカデミー最優秀ドキュメンタリー賞)を撮影しています。戦後は再びディズニーに戻り『シンデレラ』、『ふしぎの国のアリス』、『101匹わんちゃん』などの名作で撮影監督を務めています。

ご紹介したアニメ作品は歴史的な経緯から、まず日本でテレビ放送されることはなく、普段目にする機会はありません。しかしYouTubeなどでは多くの作品がアップされており、検索すればそれこそ山のように出てきます。これらの作品も「アニメの歴史」にあったこととして、記憶しておきたいものです。

(文:咲村珠樹)

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