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「どんな気候でも咲く桜」に込められた平和への願い

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 世界にはその業績や功績が高く評価され「偉人」と称えられる人がいる一方で、素晴らしい仕事をやり遂げたにもかかわらず、その足跡があまり知られていない人もいる。
 「高岡正明」という名前を聞いても、ほとんどの人は彼がどんな人間で、何を成し遂げたのかわからないだろう。しかし、その業績を見れば、彼がまぎれもない「偉人」であることがわかるはず。少なくとも『陽光桜 非戦の誓いを桜に託した、知られざる偉人の物語』(高橋玄/著、集英社/刊)に収められた彼の取り組みと人生は英雄的だ。

 高岡正明は1909年に愛媛県で生まれ、学校を卒業するとそのまま地元で農業を営んでいたが、1940年に青年学校の教員になっている。当時の日本は軍国主義がはびこり、太平洋戦争突入への機運が高まっていた時期。そんな時代にあって正明は非戦論者だった。

 その証拠のように、彼は1941年に国民学校令が発令され、全国の公立高校が「国民学校」として軍国主義の教育機関に変わるのとほぼ同時に教職を離れた。これは、教育者として、あるいは非戦論者として軍事教育に加担することに耐えられなかったからだと考えられるが、この短い教員生活の中でも、戦地に送られる教え子を送り出す経験をしている。

 「いいか、日本帝国は皇国!神の国じゃけん、負けることはないと言いよるんじゃ!勝って帰って来い!そして、またこの桜の木の下で会おうやないか!」

 勇ましい言葉に聞こえるが、青年学校では日頃から「生きて虜囚の辱めを受けるな」と教えていた。そんな中での「生きて帰ってこい」という正明のメッセージは、いざという時には敵に降伏しても良いという意味にも受け取れ、国家反逆罪に問われかねない。「激戦地には行くな!どうか生きて帰って来てくれ!」というのが正明の本心だったのだ。
 しかし、戦争はやはり容赦なく彼らの命を奪い、半分以上の教え子が戦死した。
 その戦争が終わった時、正明は敗戦の事実よりも自分の言葉で生徒を死地に送り出したという罪の重さに茫然としたという。
 ある生徒はジャワで、別の生徒はシベリアで亡くなった。そんな彼らと桜の下で再会する約束をしている。それならば、自分の手で桜を作り、彼らの眠る地で咲かせるほかないではないか。

 世界の各地に散り散りになって死んでいった教え子の供養と戦争根絶の願い。
 これが、正明がその後30年かけて成功させた、どんな気候であっても花を咲かせる新種の桜「陽光」の開発のはじまりだったようだ。

 そして、ここからが壮絶だ。
 理想の桜を作るための品種改良として、既存の種の人工交配を繰り返すわけだが、当然気の遠くなるような時間と、莫大な費用がかかる。私財をなげうって開発を進めたものの、もともと資産家というわけではない。しかし、たまりかねた息子の照海がいくら「もう十分だろう」となだめてやめさせようとしても、温泉に招待して開発の現場から引き離そうとしても、「寒冷地でも熱帯地でも咲く、樹勢が強くて樹齢も長く、大輪の花を咲かせる桜」の理想はゆるがなかった。そして、その開発の理念上「商売っ気」はゼロである。
 1979年にようやく正明本人が納得する桜を生みだすことに成功したが、そのサンプルを無償で、送料まで負担して国内はおろか世界のあちこちに送ってしまうのだから、家族としてはたまったものではなかっただろう。内閣総理大臣や自衛隊基地はもちろん、中国、ブラジル、バチカン市国のローマ法王へも送ったというから恐れ入る。

 お金にならないことに数千万円もの資金を投じてしまった父に手を焼きながらも、息子たち家族は結局、正明の熱意に負けて協力してしまう。そうした人々を巻き込んで、正明はその生涯を平和活動に捧げ、彼の開発した「陽光」は世界中広まった。その一部始終が本書には収められ、読む者に感動を与えてくれる。

 「知られざる偉人」として、これまであまり認知されてこなかった正明だが、その人生は今、本書だけでなく映画 『陽光桜-YOKO THE CHERRY BLOSSOM-』においても明らかにされようとしている。戦後70年という節目の年に、戦争を経験し戦争に人生を決定づけられた男の軌跡は、どのように受け入れられるのだろうか。
(新刊JP編集部)


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