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リアリティへの意志ーー漢(MSC)の自叙伝『ヒップホップ・ドリーム』がおもしろい

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自らのレーベル〈鎖Group〉を立ち上げ、dommuneでの公開記者会見も話題となったラッパー、漢 a.k.a. GAMI。

活発なレーベルのリリースと、MSC名義でひさびさのリリースをするなど、ここにきて快進撃を続ける彼の、その半生を描いた自叙伝『ヒップホップ・ドリーム』が、その包み隠さずな内容で話題となっている。

本著は漢の、その生後から少年時代、不良少年時代、高校でのラップとの出会い、新宿でのストリート・ビジネス、MS Cru(のちのMSC)の結成、フリースタイル・バトルや作品リリースなどアーティストとしての活動、そして自らの活動の母体としながらも、現在は決別した〈LIBRA〉、そして〈鎖Group〉の設立の真相などが赤裸々に書かれている。

少々遅くなってしまったが、ここで紹介せずにはいられない。

本著を読んでいて、すばらしく魅力的なのは、目、つまるところ漢のあまりにもクールな視点だ。

新宿の猥雑な空間(大久保を含む、青梅街道ー靖国通りから北側と言ってもいいだろう)。そこで1990年代に繰り広げられた、10代のアウトロー・カルチャーのある地域のある部分を記録した思春期の経験。そのなかにいながらも、どうしても一歩引いて冷静に見えてしまう視点。

その後、ラップの魅力にはまり、さらには新宿にて仲間たちと「アジト」で過ごし、ストリート・ビジネスに手を染めるMS Cru結成当時の狂気スレスレの緊張感。それすれらも自身が内側にいながらどこか外側から見ているかのような視点。

こうしたそのあまりにもクールな視点の集まりが、いつしか彼が追求する「リアリティ」へと結実し、ラッパーとしての行動規範になっていく様が描かれる。

その体験は鋭く、そしてリアリティにこだわるあまりに、ある種の狂気ですら自らのものにするが、しかしそれは真っ直ぐに目の前の状況を貫いていることは間違いがない。

そのリアリティへの視線、クールな現実への審美眼はラッパーという生き方を選び取ったことによってさらに鋭利に純度を、さらに増して精製された部分もあるだろう。

彼が口にする言葉は、単なるアウトロー賛歌と見えながら、やはり、さまざまな”底辺”の中でくすぶる心を揺さぶる。それこそがリアリティの”濃さ”の説得力と言えるだろう。例えば本著での語り口は、サービス精神旺盛で、どこかユーモラスなのだが、その目線はあくまでも冷静だ。そのユーモアと冷静さが、帰ってその事実の恐怖感、切迫感を喉元につきつけることは言うまでもないだろう。まさにそれこそがリアリティの”濃さ”のなせる技である。

このリアリティとの付き合い方は、日本語ラップ以外の、この国の、言葉を主体にした他のポップ・ミュージックの感覚と大きな開きとなっていまのシーンに横たわっているようにも思える。

また本書を語る上で、彼の思春期やストリート・ビジネス、そして〈LIBRA〉との関係など、やはりそのセンセーショナルな場面が紹介されることも多い。が、しかしフリースタイル・バトルの深化の話などは、日本のラップ・ミュージックの音楽史という部分でも重要な証言も含まれている。もちろん、MSC(MS Cru)以前の周辺のアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンの流れやラッパーとの交流、そしてビーフも含めて、シーンの記憶としてももちろん重要な場面がいくつかある。

そして、とにかく読み物として抜群におもしろい。
(河村)

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