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慢性腰痛は脳が作り出す幻 痛みのトラウマが神経に作用する

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 腰痛は日本人にとって“国民病”である。日本人の実に4人に1人に相当する2800万人もの人々が、腰痛に苦しんでいる。この“腰痛持ちの人”のうち、およそ半数が患っているのが「慢性腰痛」である。

 慢性腰痛が厄介なのは、身体的な異常が見当たらないのに痛い、つまり「原因が不明」だからだ。たとえば腰のレントゲンを撮っても骨や筋肉に異常を確認できない、あるいは、患っていた椎間板ヘルニアがすでに完治しているのに、3か月以上にわたって痛みが続く。こういった腰痛を慢性腰痛と呼ぶ。

 しかし、最新の研究により、ついにこの「不治の病」と呼ばれた慢性腰痛のメカニズムが解明され、画期的な治療法が生まれていることが、7月12日放送のNHKスペシャル「腰痛・治療革命~見えてきた痛みのメカニズム~」で紹介された。

 番組は大反響を呼び、NHKのホームページ上で、視聴者からの反響や意見を紹介する「週刊みなさまの声」によれば、番組後の視聴者による書き込みは823件にものぼったという。「わかりやすく、感動した」「近年にないよい番組だった」といった声が寄せられている。

 この番組内で「新たな治療法」を紹介し、啓蒙をはかっている福島県立医科大学には、「放送翌日から附属病院に診療してもらいたいという問い合わせが相次いでいます」(広報コミュニケーション室)という。番組で紹介された治療法は、それほど腰痛患者にとって「衝撃」だったのだ。

 番組でまず紹介されたのは、カナダの最新研究だ。カナダのモントリオールにあるマギル大学では、半年以上も続く腰痛に悩む18人の患者の体を徹底的に調べたところ、脳のある部分に共通の異変が起きていることがわかったという。本誌は、マギル大学での研究に携わったメリーランド大学助教のデイヴィッド・セミノウィッツ博士に話を聞いた。

「脳内にあるDLPFC(背外側前頭前野)と呼ばれる人間の判断や意欲などを司っている部分は、脳内で作られた『痛い』というシグナルを鎮める役割を果たします。慢性腰痛を抱える患者の脳は、この部分の体積が減っていた(小さくなっていた)のです。これによって脳の構造の変化と痛みが関係していることがわかりました」

 セミノウィッツ博士の説明をもとに腰痛が続く仕組みを整理してみよう。骨や筋肉などに炎症が起きると、その情報は神経によって脳に伝えられ、痛みの回路が生まれ、「痛い」という感覚を引き起こす。その後、炎症が治まっても脳の神経細胞は興奮しているため、しばらくは「痛い」という感覚が続いてしまう。

 そこで活躍するのがDLPFCだ。DLPFCは炎症が治まると「痛みよ、鎮まれ」という信号を出し、痛みという感覚も同時に治めてくれる。ところが、DLPFCの働きが衰えると、脳が生み出す「痛い」という感覚を鎮めることができなくなり、たとえ炎症が治まっても痛みが継続してしまうわけだ。つまり、慢性腰痛の痛みとは、脳が作り出す“幻の痛み”だったのだ。

 ではなぜ、慢性腰痛持ちの人のDLPFCは衰えているのか。これも最新の研究で、痛みへの恐怖が関係していることがわかってきた。ぎっくり腰を起こした人はそのときに感じた痛みがトラウマとなり、また同じ痛みを繰り返すことへの強い恐怖心が生まれる。恐怖心を感じるとDLPFCにストレスがかかり、神経細胞が疲れてしまって働きが衰え、鎮まれという指令が出にくくなるのだ。

 ぎっくり腰や椎間板ヘルニアなどに対する恐怖心がDLPFCの機能を低下させる。これが“幻の痛み”が続くメカニズムだった。

※週刊ポスト2015年8月7日号


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