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芥川賞作家が舞台とした「浦」とは――小野正嗣インタビュー(2)

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第69回の今回は、新刊『水死人の帰還』(文藝春秋/刊)を刊行した小野正嗣さんが登場してくださいました。
 小野さんといえば今年1月に『九年前の祈り』(講談社/刊)で第152回芥川賞を受賞したのが記憶に新しいところですが、『水死人の帰還』は未発表だった「ばあばあ・さる・じいじい」から2009年に発表された「みのる、一日」まで、長期間にわたる創作が収録された作品集。小説を書き始めたころから現在までの、小野作品の変化を味わうことができます。
 1996年のデビューから19年。小野さんの文学はどのようにスタートし、築き上げられていったのか。たっぷりと語っていただきました。

■小さくて、風変わりな土地に生きる人を描く
――生まれ育った土地である「浦」を舞台に小説を書かれている小野さんですが、そう思ったきっかけはどんなことだったのでしょうか。

小野:大学に入って、全国のあちこちから出てきた人と友達になって話をしたり、先生と話をしたりするようになると、それぞれ出身地の話をしたりするじゃないですか。それで僕が自分の出身地の話をすると、みんな面白がって聞いてくれる。そのうちに、「自分の田舎は実はちょっと変わった場所なんじゃないか」と思うようになったんです。
そういうことって、その土地に住んでいるうちはなかなかわからないことですよね。余所からきた人と話すことで、だんだんと自分自身が生まれ育った土地を「発見」していく。僕の場合もそうで、いろんな背景を持つ人と話すうちに、自分の生まれ育った土地には物語の種がたくさんあるんだということがわかってきたので、それについて書いてみたいと思ったんです。

――それまでは普通だと思っていたものが、どうやらそうではなかったというのがわかってきた。

小野:そうですね。でも、僕にとっても東京などの都市部で生まれ育った子の話は新鮮でしたよ。
違ったバックグラウンドを持つ人が話すことで、お互いが自分を発見するというのは小説を読むことともつながっていて、いろんな友達や先生から「こういうおもしろい小説があるよ」と紹介してもらったものを読んでいるうちに、自分自身興味をひかれるものが、ある小さな土地を舞台にして、そこに生きる人たちの姿を描いた作品なんだとわかってきた。
有名なところでは、ガルシア=マルケスだとか大江健三郎、中上健次の小説ですね。そういうものが僕にとっては面白かったんです。それもあって、僕も風変わりな土地に生まれたようだし、そこを舞台に書いてみよう、となりました。

――「小さな土地に生きる人々」を描いた文学というと、今挙げられたような偉大な作家が思い出されます。こうした作家の作品は小野さんが小説を書くうえでの道しるべになりましたか?

小野:小さな土地を舞台にした小説はいろんな作家が書いていて、フォークナーもガルシア=マルケスも素晴らしいけれど、自分がマネをしても同じように書けるわけではありません。
これは、さっきの「これじゃない」という文体の話と似ていて、自分は彼らのように書けないということがわかったからこそ、「これではないもの」ということで自分の書くべき道が見えてきたところはあります。そういう意味では道しるべになったと思っています。

――『水死人の帰還』のお話に戻りますが、ほとんどの作品に登場して「浦」の人々を困らせる猿が憎らしくもユーモラスでした。

小野:これは本当にそうで、山から猿が下りてきて悪さをするんですよ。この本に出てくるのは大体が僕がばあちゃんから聞いたようなことに尾ひれはひれがついたものなのです。「ばあばあ・さる・じいじい」の猿が民家に入ってきて仏壇の桃を食べてしまうエピソードは実話です。
田舎ということもあって泥棒などはいない前提で暮らしているので、家に鍵をかけないんですよ。だから近所の人が勝手にあがりこんで仏壇に線香をあげたりするんですけど、ある時電気がついていない暗いなかで仏壇のところに何かいるから、どこかのお婆さんが線香をあげにきたのかなと思って電気をつけたら猿が供え物の桃を食べていた(笑)。
僕自身は猿からひどい目にあったことはないんですけど、子どもの頃は「目を合わせたら襲われるから目を合わせないように」と言われていましたね。

――表題作の「水死人の帰還」は「オジイ」の記憶や実際にあった出来事が混然と描かれていてすばらしかったです。こういう書き方というのは計画してできるものなのですか?

小野:先の展開などはあまり考えていません。記憶って思った通りに甦らないですし、思い出したくもないことをいきなり思い出してしまったりするものですよね。それを書き表わそうとして、頭に浮かんだイメージをそのまま描写する感じになりました。

第三回 「読むことで立ち上がってきた世界は、その人だけのもの」 につづく


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