今週予定されていた“幻”の平日選挙(地方議会ニュース解説委員 山本洋一)

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東北である珍しい選挙の予定が……

今週、東北地方である珍しい選挙が行われる予定となっていた。何が珍しいかというと投票日が日曜日ではなく、平日の水曜日だったのである。結果的に無投票となり投票は行われなかったが、選挙の事務経費や投票率を考えるうえで参考になる取り組みである。

東京ドーム4個分の広大なユリ園などで知られる山形県南部の飯豊町。人口7600人あまりのこの町で、今週22日に町議選が行われる予定だったが、定数と同じ10人の候補者しか集まらず、17日の告示日に全員の無投票当選が決まった。

同町では事務経費を抑えるため、1971年の町議選、1977年の町長選から投開票日を平日に設定している。読売新聞によると、投票所や開票所で作業を担当する職員は全職員約130人のうち約50人。平日勤務で休日手当が必要ないことから、日曜日と比べて半額程度の約150万円で実施できるという。

気になるのは投票率だが、平日に行った過去の町議選は81~96%、町長選は84~93%。8割を超え、日曜投票だった今春の県議選の67%を大きく上回っている。平日だと投票率が下がるというのが一般的な感覚だが、少なくともこの町には当てはまらない。

同町によると平日投票には経費削減以外にも大きな“メリット”があるという。

町村長や町村議の選挙は「5日以内」と決まっており、日曜日を投票日とすると選挙期間は火曜日以降から土曜日まで。選挙期間前や投票日は一切の選挙運動が認められていないため、多くの有権者が休日である日曜日に候補者の主張を聞くことができない。

しかし、水曜日が投票日なら、選挙期間は金曜日から翌週の火曜日まで。間に日曜日を挟むことができ、多くの有権者が候補者の生の声を聞くことができる、というわけだ。投票率が下がらないというならば、平日投票は一考に値するアイデアだといえる。

英国では木曜日

海外ではどうか。欧米では日曜日がキリスト教の安息日であることや、週末選挙は労働者の休息を妨げるという観点から、平日に選挙を行うことが多い。米国の大統領選の一般有権者の投票日は11月の第1月曜日の翌日、英国ではすべての選挙を木曜日に行う。韓国の大統領選は平日に実施し、その日を休日とする決まりである。

日本の国政選挙もかつては平日投票が当たり前だったが、1963年の衆院選が木曜日、1969年の衆院選が土曜日に行われたのを最後に日曜投票が定着した。当時は高度成長期であり、サラリーマンが日曜日に休むという働き方が浸透した時代だったからだろう。

とはいえ、今は働き方が流動化している時代。サービス業の労働者や製造業の非正規社員たちの休日は必ずしも日曜日ではない。今後も労働形態の流動化は進むとみられ、日曜投票とすればすべての有権者の投票機会を確保できるわけではない。韓国のように投票日を国が休日に設定したとしても、すべての労働者が休むことはできないだろう。

むしろ「投票日」という概念をなくしてはどうだろうか。最近、期日前投票が急速に浸透しているが、これをもっと拡大し、ある一定期間の間ならいつ投票しても構わないという制度にすればいい。もちろん今のように体育館に大々的に投票所を設ければ事務経費が大きく膨らむが、そこは工夫のしようがいくらでもある。コンビニエンスストアやインターネットを活用すれば、経費を抑えたまま、投票機会を拡大することは十分に可能だ。

地方政治にとって予算の圧縮と投票率の向上(政治への関心の向上)はともに重要な大きな課題である。慣例に縛られない、自由な発想からこそ、選挙制度のイノベーションが生まれるのかもしれない。

(地方議会ニュース 解説委員 山本洋一)

 

Photo :https://www.flickr.com/photos/13910409@N05/4736684425/

 

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