【インタビュー】大阪都構想の否決は日本全国のマイナス―佐々木信夫(中央大学教授)に聞いてみた。<第一弾>

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今年5月17日、1万票という僅差で「大阪都構想」が否決された。――投票から2ヶ月たった今、大阪都構想に賛意を示し、市の特別顧問として関わってきた佐々木信夫(中央大学教授)に、なぜ大阪都構想は否決されたのか聞いてみた。

※このインタビューは連載形式でお伝えいたします。次回は「地方議会の在り方」について

大阪都構想の否決は大阪市、大阪府さらに日本全国にとってもマイナスな出来事だった

5月17日、70万票対69万票、一万秒の差で反対票が上回りました。5年間準備をしてきた都構想が否決をされました。これは残念な結果だと思います。

一つは大阪市民、大阪府民にとって、政令指定都市、香川県についでせまいところで同じような行政をやっている場合ではないということです。昭和31年に 横浜、名古屋、京都、大阪、神戸ですが、大都市を経営するのに必要な権限を府県から移す、その制度をスタートさせたのが政令指定都市制度です。大阪市でいいますと、その後大阪市域は広がりまして地下鉄、道路、公共施設の整備もほぼ270万都市として完結をしています。

一方で、270万人の巨大な市について住民が参加する、住民の声が届くという仕組みにはなっておりませんので、これは東京の特別区のような新たな自治体を 大阪市域に5つ作りまして 40万から70万人の規模で政治がきっちりとできる 仕組みすなわち特別区制度を作ります。 広域権限は府県に戻して 1つの市長1つの議会で巨大な市を運営している手法を住民自治を充実させるために5つに分割、あらたな自治体をつくって政治や行政が基礎的な自治により行われるようにするという制度設計が 大阪都構想の1つの構想だったと思われます。

もう一つは大阪の外から見まして主に1970年の 万博以降ずっと経済が衰退。右肩下がりしていると言う大阪が続いておりまして、 これが反面として東京の一極集中を呼び込んでいます。 明治時代より西日本の拠点を復活させないとこの国はおかしくなります。 東京はたかだか全国の3.6%のところに3,500万人が住んでいる、集中している東京圏一極集中というのが色んな意味でリスクを追っています。住んでいる人も決して幸せと思って住んでいるわけではない。結果として大阪を強くしないとこの問題は解決しません。この大都市間をリニアモーターカーでつなぐということにもなっています。これを2都構想と読んでいますが 大阪と東京が同じレベルで発展していくということが21世紀の人口が減って行く社会の一つのあり方かなと思いましたが、残念ながら住民投票という大都市の制度について、どこまで理解をして投票して頂いたかわからないのですが、大都市の制度について住民の一票で決めるということで、結果においては一万票と誤差の範囲ではなると思いますが、一票でも多い方に従うという法律の主旨にしたがって今回大阪都構想は否決されました。 これは大阪市大阪府にとってもマイナスだと思いますし、 日本全国にとってもマイナスの出来事だったと思います。

大阪都構想、住民投票で否決された要因は?

――マイナスの状態が起きてしまった最大の理由はなんでしょうか?

いろんな世論調査を見ていましても説明が不十分です。

そのような答えは70%を占めています。 橋下市長は 半年の間に800回の説明会を開き 、500人単位で説明をしているのですが500人を集めて800回説明しても270万人の市民になかなか浸透する話ではありません。聞いた方はある程度質疑応答もしておりますので理解をされていると思いますが、全有権者の一割に達したかどうかです。 1つの何も見えないバーチャルの制度に対して「住民が判断したらどうですか?」といわれても 道州制と言うものの実体がない中で「 国民投票で判断したらどうですか?」 と言われましても 何をモデルに判断すればいいのか、「 特別区制度は東京に行ったらありますよ」と言われましても 大阪の方から見ると千代田区に行っても杉並区に行っても世田谷区に行っても 、何が特別制度なのかということを理解するのはほとんど不可能です。荒川区長や中野区長など現職の区長さんも大阪へ来て頂いて東京よりも制度的によい設計をしていると言われましても、かゆいところに手が届く「ゆりかごから墓場まで」の問題についてはどんなに大きくても50〜60万人の単位で住民自治が行われないとうまくいきません、ですから特別区制度は大阪で導入するのが望ましいという話でした。

結論から言うと「大阪市がなくなる」「大阪が分割される」という一つのアナウンスが反対する方々からは出されました。確かに大阪市という行政機関はなくなるのですがそれに変わる5つの自治体が出来るということにはなかなか目が届きません。もう一つは大阪市という伝統ある都市が5つに分割されると言われました。東京を見てみますと東京という都市を特別区制度が分割しているかというと何も分割していないわけでして、たんなる行政の話なわけですが市民から見ますと大阪市が5つに分断されて「となりの区の保育所には入れなくなる」とか市営住宅は入れなくなるそうだとかこういう機会に敬老金が廃止されるそうだとか、そういった日常の生活の不安を煽るような話、 ネガティブキャンペーンが伝えられていたと思います。 それが意外と効いたと言うことになると思います。

分析をしますと大阪24区の内、 11区は賛成票が上待っています、13区は反対票が上回っています。 その賛成と反対の差は二千票や三千票といった形でやったりとったりで概ね来ているのですが最後に一番人口の多い平野区というところが反対票が一万票上回りました。ある意味、今回の大阪都構想の決定者は平野区の住民でした。ここは所得の水準から見ても非常に低い、政党の支持層から見ても共産党、公明党支持者が多い、維新の議員がいない、あまり運動に入っていないというというところがターゲットに狙われて反対票が大きく出ました。これも住民投票の難しさであります。

全体で否決したかといいますと平成の市町村合併もそうですがある部分が潰れることによって全体が潰れるわけです。こういった住民投票や国民投票に日本人が慣れてないということもありますし、やや反対運動に使ってきたという歴史もあります。これがまっとうな民意を正確に反映することかといいますと、直接参加というと聞こえはよいのですがマスメディアの誘導も含めて歪んだ結論になる可能性もあるかなあ、という印象を持ちました。

総合区とは?

―― 今後、総合区を使ってやれるところまでやろうという話もありますが年末に向けてその先はどうなっていくのでしょうか?

二重行政の問題というものは今後も残っていきます。 細長い狭い区域に真ん中に大阪市あって大阪府が様々な施設を整備するにしても大阪市が真ん中にある。この問題をどのようにして解決するかというと一つは調整会議のような形で府県と市が対等の場所に立って二重行政を解消していくような会議で意思決定をしなさいということが大阪でも条例によって成立したところであります。24の行政区は橋下政権下で、3年前からシティーマネージャー制度と言っていますが、今までは一番権限の小さい出張所が大阪の区役所でしたが5倍位に権限を拡大しそれぞれの民間から公募した区長制度を導入して区長さんを大阪市の局長さんの上に位置づけて副市長の次に位置づけて組織に命令ができるというシティーマネージャーをラインの組織に置いて24の区を統括するという組織を作りました。これが実は総合区なんだと思います。

一昨年の第30回地方制度調査会で地方自治法が改正されて調整会議を開くことと総合区を作って区長を特別職にする、副市長並みにするということになりました。なるべく区において行政が完結するように、 単なる出張所ではなく装具的に行政が行えるように という制度設計が行われていますが、 政府は何をモデルに総合区ということを出してきたかというと第30回地方制度調査会が大都市制度の改革を60年ぶりに初めてテーマにしました。

どうしてもワンウェイの行政区の制度の評判が悪いものですから今回の総合区は自治区にはならないのですが区の出身の市議会議員で特別委員会のような制度を作ってその地域のあり方を議論してはどうですか、それと各区にはなるべく多くの権限を移して特別職の区長が行政をやれるようにと。こういったことの提案を大阪都構想、橋下改革に反対した勢力は、主に自民、公明を中心に大阪市を残して総合区にするということでした。

ただしここから先は何もありません。実際に24区ではありますが、総合区のモデルに成った制度は大阪の橋下市政のなかにできていますのでこの先総合区のために何をやるか?移せる権限、財源はなにがあるか?地域が狭すぎればこれを11区にするとか大阪都構想ででた5つにするのか7つにするのか?その辺の合区の話がでてまいります。ですが、これ自体がそう簡単な話ではありません。たとえば24区を11区にといっても数の上では2倍に拡大するように見えますがどことどこを一緒にするのかは大阪都構想も3年かけて作ったわけですがこれは意外と難しいものです。 総合区いうのはどこか1つパイロットとしてやってみようという提案のようですがこれが前に進むかというとあまり期待は持てません。それを全市に広げてゆくというのは10年かけても難しいだろうと思います。

住民が区長を選んで住民の意思によって行政のあり方を決めていく仕組みにしない限り、 270万人の巨大官僚制と言うものをそのままにしたまま、いかに多少ブランチを強くしてもあまり機能しない。特別職、副市長並みの権限を持つ区長をおくというのは一見聞こえはよいですが、仮に総合区制度で行くとすれば区長は議会の同意を得る必要のある人事です。

そうすると市議会で半分は可決して半分は否決するといったことがおきます。そうすると大阪の議会で言うと、会派あって議会なし、と大阪府議会も市議会も見ていますが議会の体をなしていないわけです。会派だけの力関係で動いていますので、 例えば11区ができたとして今の選挙制度でいきますと 多分自民党が4人、維新が4人、公明党が3人というように党派別に区長を分け合い議会全員で可決をするような減少まで起こりえる。そうするとこれは選挙で選ばれた方ではありませんので長がリーダーシップを発揮できる仕組みが失われるわけでまったく動かないものになるのではないかと思います。 そういう意味では政令指定都市の進歩した形のように 総合区はいわれますけれども、 実際は突き詰めて行きますと 大都市ではあまり有効に機能しないのではないかと思われます。

総合区制度はもうひとつ意味があります。 例えば大都市ではなくて、静岡と清水が合併した、 あるいは浜松でも十いくつが合併した、 新潟でも十いくつ合併しています。 そこの地元の要求は、例えば3とか4の 行政区はもともと市であったところですので もともとの市を核に区長を置いてそこはお任せという形です。

たとえば静岡が3つあるとしますと清水区においては市長は公選ではないですがもともと清水市長がいるわけですからある程度独立した形でお任せした形のほうが合併自治体はうまくいくのではないかと思います。こうした合併市で総合区を使うところは 出てくるかもしれません。 これは分割統治のようなものですからこれはこれでうまくいくのかもしれません。

 

 

※インタビューの様子はこちらから動画でもご覧いただくことができます。

 

 

Photo : https://www.flickr.com/photos/7940758@N07/13652084065/

 

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