今週の永田町(2015.7.14~22)

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【与党、安全保障関連法案を単独採決】

先週15日、衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で、平和安全法制整備法案と国際平和支援法の安全保障関連2法案の採決が行われ、与野党攻防のヤマ場を迎えた。

 

 *衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

関連2法案を9月27日までの通常国会中に成立させたい与党が採決に踏みきったのは、参議院送付から60日経過しても関連2法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決することができる「60日ルール」(憲法第59条)を適用する可能性を残しておきたかったからだ。また、特別委員会での審議時間116時間30分を要しても議論が堂々めぐりとなっているうえ、与野党勢力が拮抗する参議院での審議入りに時間を要することが避けられないだけに、参議院の審議時間を可能な限り確保しておきたいとの事情もある。

さらに、対決姿勢を強める野党だけでなく、石破地方創生担当大臣が「国民の理解が進んできたと言い切る自信があまりない」と述べるなど、政府内から国民理解が進んでいないことを認める声も上がっている。それだけに、衆議院での審議を早々に切り上げて安倍内閣の求心力低下を最小限にとどめたいとの思惑もあったようだ。

 

特別委員会の採決に先立って行われた締めくくり総括質疑では、安倍総理が、北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の東シナ海や南シナ海への強引な進出など日本を取り巻く安全保障環境の変化を挙げて「国際情勢は大きく変わり、もはやどの国も一国のみで自国を守ることはできない」「新しい事態になる中、武力行使の新3要件の下で集団的自衛権の行使ができると判断」「切れ目のない対応を可能とする法制が必要」と、法整備の意義を強調した。

そして、「残念ながら、まだ国民の理解は進んでいる状況ではないのも事実」と認めたうえで、「必要な自衛の措置とは何かを考え抜く責任は我々にある。責任から逃れることは、国民の命や幸せな暮らしを守り抜く責任を放棄するのと同じだ。批判もあるが、批判に耳を傾けつつ、確固たる信念があればしっかり政策を前に進めていく必要がある」「これからさらに国民の理解が進むように努力を重ねていきたい」と採決の妥当性を訴えた。

一方、野党側は「本当に国民への説明を尽くしたのか。国民の理解が十分に得られていないなか、強行採決は到底認められない。質疑を終局しないよう強く抗議する」(民主党の長妻代表代行)、「議論していない論点は山ほどある。審議を打ち切らないでほしい」(民主党の大串博志・衆議院議員)、「国民に充実した審議ではないと解釈されてもしようがない」(維新の党の下地幹郎・衆議院議員)などと批判し、関連2法案の採決方針の撤回と審議継続を安倍総理に要求した。

 

 質疑終了後、野党側が提出した質疑継続を求める動議を与党の反対多数で否決、与党が提出した審議打ち切りの動議を賛成多数により可決された。これを受け、浜田靖一委員長(自民党)が質疑終局を宣言すると、民主党議員たちが離席し、「強行採決反対」「自民党感じ悪いよね」などと記したプラカードを一斉に掲げて「採決は認められない」「審議不十分」などと声を張り上げるなどの抗議行動に出た。

委員会室に「強行採決やめろ」「数の横暴」などと怒号が飛び交うなか、まず維新の党が単独で国会提出した対案2案の採決が行われ、与党などの賛成少数により否決された。民主党と維新の党が共同提案した「領域警備法案」は、採決が見送られた。その後、維新の党が退席、民主党議員が採決を阻止しようと委員長席を取り囲んで浜田委員長の議事進行に激しく抵抗するなか、政府提出の関連2法案の採決に移り、与党の賛成多数により可決となった。民主党と共産党は、採決に加わらなかった。

 

 

【衆議院通過で空転、国会正常化へ】

特別委員会での可決を受け、自民党の佐藤国対委員長は「批判も承知のうえで採決に至ったが、現場の議論はどう見ても出尽くした感がここ数日あった。決して私どもに瑕疵があるとは考えていない」と述べた。浜田委員長は「少々質疑と答弁がかみ合わないところもあったのは事実」としつつ、「100時間を超える議論をした。与党として責任を持ってやった」と強調した。そのうえで、個人的見解として「わかりやすくするためにも、法律10本を束ねたのはいかがなものかなと思っている」と述べた。

これに対し、野党側は「国民の声に耳を傾けず採決するのは政権政党として恥ずかしい。撤回して審議をやり直すべき」「違憲の疑いが極めて濃い法案が強行採決されたことに強く抗議する」(民主党の岡田代表)、「まだ審議が足りない。国民の理解が足りない。ひどい強行採決だ」(維新の党の松野代表)、「国民多数の反対を踏みにじって採決を強行した。国民主権の蹂躙だ」(共産党の志位委員長)、「民意を踏みにじる暴挙」(社民党の吉田党首)などと一斉に反発した。

 

 次世代の党を除く野党が「議論が尽くされていない」などと強く反発するなか、15日の衆議院議院運営委員会理事会で、林幹雄委員長(自民党)が職権で16日の衆議院本会議で関連2法案の採決を行うことを決定した。16日の衆議院本会議では、浜田委員長による審議結果の報告後、自民党と公明党が賛成の立場で、民主党・維新の党・共産党がそれぞれ反対の立場で、それぞれ意見表明する討論が行われた。

民主党の岡田代表は「戦後70年間、歴代内閣と国会が積み上げてきた憲法解釈を一内閣の独断で変更したことは大きな間違い」「強行採決は戦後日本の民主主義にとって大きな汚点だ。いま首相がなすべきことは、政府案が国民の理解を得ることができなかったことを率直に認め、直ちに撤回することだ。それしか道はない」と主張し、法案撤回を求めた。維新の党の松野代表も「国民の理解が得られていないなか審議を打ち切り、強行採決を行ったことは言語道断の暴挙」「専守防衛の原則を守ってきた自衛隊のあり方を根本的に変える」などと批判した。

 その後の採決では、野党5党が退席・欠席したまま、関連2法案が与党と次世代の党などの賛成多数により可決し衆議院を通過、参議院に送付された。強行採決に抗議の意思を示すため、民主党・共産党・社民党は討論終了後に、維新の党が独自に国会提出した対案が否決された後に退席したほか、生活の党が本会議を欠席して、政府案の採決に応じなかった。

 

 衆議院通過を受け、安倍総理は「日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。国民の命を守り、戦争を未然に防ぐために絶対に必要な法案だ。国会での議論の場は参議院に移るが、良識の府ならではの深い議論を進めていきたい」「国民の理解が深まっていくように党を挙げて努力をしていきたい。丁寧な説明に力を入れていきたい」などと成立への意欲を示した。また、菅官房長官は、民主党など野党が強行採決と批判していることについて「野党全党が本会議場に入って、自ら政府案に討論した。これは強行採決ではない。採決するのが政党としての責務だ」と反論し、採決の正当性を訴えた。

 関連2法案の衆議院通過で、60日ルールが9月14日以降に適用可能となり、通常国会中の成立は確実な情勢となっている。政府・与党は、参議院で早期に審議入りし、丁寧な説明を通じて国民への理解浸透をより一層図っていきたい考えだが、衆議院の採決に反発する野党側は衆参両院すべての審議に応じず、国会が空転した。

 

自民党と民主党は、7月上旬から参議院国対委員長会談を断続的に開催して特別委員会設置について協議してきた。しかし、委員定数や設置時期などで対立し、与野党は折り合うことができずにいた。17日になって特別委員会設置が決まり、22日の会談で民主党の要求を受けいれて委員数を45人とし、少数野党を含む全11会派で構成することで合意した。

早ければ24日の参議院本会議で特別委員会の設置が議決され、27日の参議院本会議で関連2法案の趣旨説明と質疑を行って審議入りする見通しだ。ただ、与党は、衆議院での質疑時間における与野党比率が1対9程度と、早期成立を急ぐあまり野党側に攻撃機会を与えてすぎたとの反省から、与党の質疑時間の割合を増やしたいとしている。一方、野党側は与党の質疑時間を増やすことに否定的だ。むしろ、衆議院と同程度の審議時間を参議院でも確保するよう、与党側に求めるべきだとの声も上がっている。当面、審議日程や時間配分などをめぐる与野党攻防が展開されていきそうだ。

 

なお、審議拒否で足並みを揃える野党側も、今後の対応をめぐって温度差が生じている。関連2法案の成立阻止をめざす民主党や共産党などは、野党共闘で徹底抗戦を呼び掛けているが、維新の党は、与党との修正協議再開を念頭に、衆議院で否決された対案を手直ししたうえで、参議院に改めて提出する方針だ。

民主党も21日、対案となる周辺事態法や国連平和維持活動(PKO)協力法の改正案取りまとめを了承して法案化作業を急ぐ。民主党案では、日本周辺地域で日本の平和と安全に重要な影響を与える周辺事態が起きた場合には自衛隊が非戦闘員の退避を支援・援護できる「退避民保護措置」を新設するとともに、一定区域内での監視や避難民を乗せた船舶の援護などを可能にする。また、武器使用権限の拡大や、弾薬などを除く物品提供や訓練業務、宿泊提供などの後方支援策も追加する。ただ、あくまで政府案の廃案をめざす民主党執行部は「成立に手を貸すようなことはあり得ない」(民主党の安住国対委員長代理)と対案の国会提出に慎重で、今後の対応が不透明なままとなっている。

 

 

【参議院選挙制度改革関連法案、参議院通過へ】

 民主党の榛葉参議院国対委員長が議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正策に向けた参議院選挙区制度改革への速やかな対応を、国会正常化の条件の一つとして求めていることもあって、与党側は、公職選挙法改正案の審議入りを優先することで、空転している国会の正常化を図りたい考えだ。参議院選挙制度改革の国会審議の状況もにらみながら、安全保障関連2法案の審議入りを調整していきたいとしている。

 

自民党と野党4会派(維新の党・次世代の党・日本を元気にする会・新党改革)は、21日、有権者数の少ない「鳥取・島根」「徳島・高知」を合区(定数4議席から定数2議席に)するほか、5選挙区(北海道、東京、愛知、兵庫、福岡)で定数を2議席ずつ増やす一方、3選挙区(宮城、新潟、長野)で定数を2議席ずつ減らす「10増10減」案を柱とする公職選挙法改正案で最終合意した。改正案付則に「2019年参院選に向け、選挙区間の議員1人あたりの人口の格差の是正等を考慮しつつ、選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討し、必ず結論を得る」と明記されることとなった。

自民党内では、合区対象県選出の国会議員らを中心に反対していたが、22日、安倍総理が最小限の合区を容認したことを受け、党総務会の了承を取り付けて党内手続きを終えた。自民党と野党4会派は、23日に参議院に共同提出する。

 

10増10減案を柱とする公職選挙法改正案は、24日にも参議院本会議で賛成多数により可決され衆議院に送付、週明けにも成立する。一方、公明党・民主党が共同提出した、隣接県のうち人口の少ない地域を合区することで20選挙区を10選挙区に再編し、その分を1票の価値が低い6選挙区(兵庫県や東京都など)に振り分けて最大格差を1.953倍に抑える公職選挙法改正案は、賛成少数により否決される見通しだ。

 

 

【国会運営をめぐる駆け引きに注意を】

与党が15日の特別委員会で採決に踏み切ったことで、野党側が「このような乱暴な採決を行った以上、参院ではこの問題以外の委員会でも審議に応じるわけにはいかない」(民主党の榛葉参議院国対委員長)と反発して、16日に予定されていた参議院の厚生労働委員会と農林水産委員会が流会となった。

これにより、派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」と、全国農業協同組合中央会(JA全中)の中央会制度を廃止や地域農協の経営状態などを監査してきた監査・指導権限を撤廃し、法施行から3年半後にはJA全中を特別認可法人から一般社団法人に完全移行することなどを柱とする「農協法等改正案」の成立がずれ込むこととなった。

 

参議院選挙制度改革に一定のメドが立つとともに、通常国会最大の焦点となっている安全保障関連2法案の審議入りも道筋がついた。また、民主党が国会正常化の一環として求めた、安倍総理が2020年東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場の建設計画を白紙撤回したことなどに関する集中審議の開催も、自民党が受け入れた。これにより、近く集中審議が開催される予定だ。

民主党など野党は、これまで「間に合わないから変更できない」と答弁していた安倍総理や、事業主体である日本スポーツ振興センターを所管する下村文部科学大臣の責任などを追及していく方針でいる。

 

これにより、国会が正常化されることとなったが、新国立競技場見直し問題や7月末に閣僚会合が開かれる環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉、戦後70年談話、原発再稼働問題などをめぐって、野党側が集中審議の開催を求めて攻勢を強めていくとみられているだけに、与党は当面、厳しいかじ取りが迫られそうだ。

ひとまず、国会運営をめぐる与野党の駆け引きに注意しながら、重要法案それぞれの審議動向をみていくことが大切だろう。
 

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霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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