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議員バッチと政治文化(中央大学教授 佐々木信夫)

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■ もともと議員バッジは「通行証」

日本には、717名の国会議員と約3万3千名の地方議員がいる。都道府県、市区町村の議員を合わせての話だが、この人たちをみると、誰でもわかる共通の点がある。

よく、街の中や電車で胸に「議員バッチ」をつけている人を見かける。赤紫、紫紺など丸いバッチだ。国会議員も地方議員もみなこれをつけている。最近こそ減ったが、結婚式でも葬式でも「議員バッチ」をつけている人も少なくない。ひと目でこの人は議員だとわかる工夫だと言われればそうかも知れない。しかし、欧米などをみると、こうした議員バッチなどつけている人はいない。そうした制度もない。バッチは韓国、日本など少数派だ。

もともと議員バッチは、議場への「通行証」としてつくられたものとされる。だが、いつの間にか、一般人と区別する特権的な身分のあかし、「身分証」のように変わってしまっている。日本の議員バッチには特別な効用があるように見える。

胸元のバッチが”権威“の象徴にみえるのだ。よく不祥事を理由に“責任をとって議員を辞職する”と会見などで述べる際、「議員バッチを外す」という表現を使う議員がいる。自身にとって、議員バッチは命の次に大事なものだろうか。ともかく、日常生活から冠婚葬祭まで肌身離さず議員バッチを着け歩く姿を見ると、このバッチの存在が“議員とは何か”を考える際の重要なヒント、日本の政治文化をみる場合のポイントといえそうだ。

 

■ 議員族にとって大切らしい”議員バッチ”

地方の話ではないが、東京の永田町周辺にいくと、ある種、議員バッチの集団であふれている。717名も国会議員がいるから、その議員会館周辺はバッチ族が多いのは当然だが、それを上回る数の地方議員が陳情請願ほか面談のために訪れる。彼らは省庁回りの後か先に必ず「オラが先生!」を訪ね、意見交換も含めいろいろお願いする。行政とは別な意味で、政治の世界の中央集権の構造を垣間見る思いがする。

それはともかく、国会議員のバッチはあたかも権威の象徴のように、ひときわ目立つ。

【図―】 参議院議員バッチ

 

衆議院は赤紫、参議院(写真)は濃紺のバッチと色の違いはあるが、これをつけている人といない人では、警備員らの扱いが全く違う。私たち一般人は、ボディチエックを受け議員とのアポイントがなければ、議員会館にすら入れない。因みに、国会に出入りする国会議員のほか、議員秘書にも専用のバッチが支給されているが、議員以外はバッチの着用のほか専用の身分証明書をセットで保持していないと国会に入ることはできないそうだ。もちろん、議員といえども、バッチがなければ中に入れない。過去に議員バッチを忘れてしまい、中に入れないので、後ろからきた議員からバッチを借りて入場したという間抜けな話まであるくらいだ。

ともかく、議員族にとってバッチは大切なもののようだ。国会に限らず、このバッチをつけている人たち(議員)は、都道府県で2613名、市区で19576名、町村で11249名いる(2015年)。平成大合併の始まる平成12年以前は64712名の地方議員がいた(平成10年)。それが現在、33438とこの15年間で半減している。原因は約4万に及んだ町村議員が約1万に減った点にあるが、ともかく約33500名の地方議員が、日本の公共分野の3分の2を占める自治体行政の決定者であることは間違いない。

どこまで本人に自覚があるかわからないが、議会制民主主義は議員に決定者の役割を委ねている。国会も含めこれに要する経費は、事務局経費など間接経費を除く歳費、報酬費など直接経費だけでも、ざっと5000億円。うち約4000億円近くが地方議員の経費とされる。

■ 地方議員のバッチも様々

議員バッチは赤紫、紫紺と色も違うし大きさもいろいろだが、共通しているのは、真ん中に小さく金色の菊花模様が見える点だ。大きさは様々でどれが国会議員、どれが県議会議員、どれが市区議会議員、町村議会議員のバッチかなど区別はできないが、ともかく議員バッチをつけている人が「議員」だという点ははっきりわかる。

聞くところでは、地方議員のバッチには様々な種類があるという。よく議員大会や議員セミナーでその集団にあうが、区別はよくわからない。都道府県の議員バッチは同じだが、同じ市議でも一般市議のバッチより政令市の市議は一回りバッチが大きい。町村議員の場合、一般議員のバッチは同じだが、議長バッチとか、郡の会長バッチまである。さらに国会議員同様、地方議員にも退職議員バッチがあり、議会によっては色の違う長期在職者バッチまであるようだ。10年、15年表彰の際、公布されるという。モールの巻かれていない略章(徽章)まである。ともかく、図は一例だが、こんなに地方議員がつけているバッチの種類はある。ほとんどの人はどれがどうだか知るすべもないが、彼(彼女)らの世界では絶対的な意味を持つようだ。これだけこだわるようだと、もしかして、落選中の元議員バッチまであるのかもしれない。

【図二】 地方議員のバッチの種類

 

■ ある市の条例によれば、議員バッチは身分証らしい

地方議員の場合、国会と同様、議場に入る場合、バッチがなければ入れないのか。退職者バッチや長期在職者バッチはどのような時、使われるのか。いろいろ疑問はあるが、ある市の条例をみると、議員バッチについてこう規定している。

議員は、その身分を明らかにするため、議員き章(以下「き章」という。)をはい用するものとする。

き章は、議員の当選が決定したとき直ちに交付する。
議員が亡失その他の事由により、き章の再交付を受けるときは、実費を納入しなければならない。

 

どうやら、この規定からすると、議員バッチは身分証のようだ。議員活動をする際は、身分をそのバッチで明らかにせよと書いてあるものと理解される。なぜ、こうまで日本の議員はバッチにこだわるのだろうか。日本独特の政治風土のせいなのか。確かにバッチをつけていると、目立つという点で不祥事などの防止につながるかもしれない。しかし、一般市民を代表していると意識より、一段高い身分にいるという「身分の証」といった錯覚につながることはないだろうか。最近の、威嚇したり、威張ったり、暴力沙汰を起こす地方議員の事件を見聞きすると、特権意識があるようにみえてならない。

むしろ、まちづくりの代表、市民生活者の代表という感覚を植え付けるには、欧米のように議員バッチなどなくしたらどうか。意外にそうした「心の垣根」を外すところから、地方議員の改革が進むように思うがどうか。夕方あつまっての“5時から議会”、そうした土日夜間議会が広まっていく、サラリーマン議員が普通に議員活動のできる社会はできないだろうか。彼(彼女)らは、自分の所属する会社の社員証をつけたまま、議場で議論する。それは普通の会議の姿と変わりない。普段着の議会、それでもよいのではないか。

有権者枠を18歳まで広げ、ようやく世界標準に達したと胸を張る人がいるが、地方議会は兼職が普通、土日夜間が普通、実費程度の議員手当てが普通、この標準にいつになったら近づけるのか。日本の政治風土と市民の政治意識が変わることが求められている。

 

(中央大学教授 佐々木信夫)

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