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人間vs怪獣のノンストップ・スリラー『BLOOD ARM』

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 山間の小さな町に住む沓沢淳は、いわゆるフリーターと言われる身分だ。1年前にオートバイで事故を起こし、九死に一生を得た。せっかく拾った命ではあるが、特に生きる目標もなく、惰性で毎日を過している。

 町の北側には黒岩山という平凡な山がある。前年の初め、その山頂に天体調査のための研究施設と見られる巨大な建築物が作られた。建物には、直径二十メートルを超す巨大なパラボラアンテナが併設されており、その異様さからUFOマニアなどにも知られるようになった。最近になって町には異変が続いている。一日二、三回という頻度で地震が起きているのだ。奇妙なことに群発地震はこの町だけの現象であり、隣接地域にはまったく影響が出ていないという。しがないフリーターの身からすれば、町の外で何が起きようと知ったことではないのだが。

 そんなある日、沓沢は山中でそれまでにはなかった強大な規模の地震に遭遇する。地面の揺れはいともあっさりと崖を削り取り、麓に続く道を塞いでしまう。徒歩で下山しようとしていた沓沢は、信じられないものを目撃する。山中の集落が壊滅し、住人が皆殺害されていたのだ。恐慌に陥る間もなく、新たな脅威が彼を襲ってくる。鞭のようにしなる音をさせながら、何者かが沓沢に迫ってきていた。それがおそらくは集落を全滅させたのだ。若者の命は正体不明の何かによって今まさに奪われようとしていた。

『BLOOD ARM』(KADOKAWA)は、倒叙ミステリー〈福家警部補〉シリーズなどで知られる大倉崇裕による、ノンストップ・スリラーだ。ウェブコミック配信サイト「YOMBAN」で2009年に連載されていた作品が元になっており、このたび大幅な加筆修正が行われた上で書籍化された。〈福家警部補〉には大倉が愛するTVドラマ〈刑事コロンボ〉シリーズの影響が見て取れるが、本書には作者の別の特徴が発揮されている。ミステリー界きっての、怪獣ファンとしての一面だ。

 帯に「正体不明の生物との死闘に次ぐ死闘」とあるので、書いてしまっていいだろう。主人公・沓沢淳を襲ってくるものとは一種の「怪獣」なのだ。沓沢は徒手空拳でそれに立ち向かわなければならなくなるが、頼もしい味方が現れる。彼がアルバイトをしているガソリンスタンドで出会った美女・御堂怜子だ。彼女は怪物たちの正体を知っているようであり、その対処法も身に付けている。否も応もなく御堂と行動を共にした沓沢は、驚愕の事実を知らされることになる。そこからまた運命の歯車が狂っていくのである。

『BLOOD ARM』という題名の意味は後半で明かされる。なるほどその手があったか、と感心させられるが、わずかな間にどんどん大風呂敷が広げられていく、そのスピード感が読んでいてたまらない。「怪獣もの+○○もの」の○○に入るのが何か、ということは実際に読んで確かめていただくのがいいだろう。特撮好きにももちろんお薦めで、ちょっとオールドファン向けに書くと「アイアンキング」(御堂怜子は女性版の静源太郎なのだ)かと思っていたら「○○○○○○○○○○○○」か、という展開でちょっと私は驚いた。きちんと因縁話に落とし込まれるので伝奇小説としても成立しているので、もちろん特撮や怪獣にあまり関心がなくても楽しむことができる。

 怪獣ものといえば最近では宮部みゆき『荒神』(朝日新聞出版)がある。『BLOOD ARM』と『荒神』に共通しているのは、怪獣と人間の力の差が強調されており、いかにすればそれを倒すことができるか、という点に関心が集中するように作劇されている点だ。話が単純な分『BLOOD ARM』は『荒神』よりもさらにその度合いが高い。法廷ものと言いながら法廷外の人間ドラマに紙幅を割くことが多いリーガル・スリラーよりも正攻法の法廷小説のほうが好きな人がいるように、怪獣に追われる人間たちの人生模様を描いたものよりも怪獣の恐怖について書かれた小説を好む読者はいるはずだ。そういう人たちに向けて書かれた小説である。「目だ、目を狙え」と呟きながら読むとよろしい。

(杉江松恋)

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