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強制執行

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 最近のニュースで、立退き強制執行当日に生活苦から娘を殺した母親に対して懲役7年という判決があったことを知り、思い出したことがある。
 修習生時代のことで、民事裁判修習の一環として、特別部修習というのがあった。商事部や破産部などの特別部から、自分の好きな特別部で一日とかの短期修習を行うのである。私は、執行部を希望し、そこで強制執行の立会に参加した。家賃滞納を理由とする都営住宅の明渡である。先の判決と同じようなケースだ。
 強制執行の参加者は、執行官、執行補助者、立会人、道具屋である。道具屋とは、めぼしい動産を買い取る業者のことである。

 あまりの悲惨さに気分が落ち込んだ。その執行は家人がいないまま着手され、執行開始後間もなく、外出していた母親と中学生くらいの女の子が帰ってきた。二人は、執行の状況に唖然としており、執行官の説明も耳に届いていないようだった。正に、茫然自失という言葉があてはまるその親子の様子を見ると、気分が暗くなっていく。
 家の中を見回しても、ぜいたくそうな生活用品はなく、しかも、債務者名は母親であるから、母子家庭であると推測された。親子二人で、どうみても何とか毎日を生活しているということも感じ、気分はますます落ち込んでいく。

 執行官が、今夜泊まるところがあるのかと聞いていたが、母親が、これから考えますと返事をしたのも悲しい。とりあえず、親戚などの家に行ったらとの執行官の言葉に、母親は無言であった。

 道具屋が金目の動産に買取金額をつけていく。本来、建物明渡では、目的外動産への執行はできないのだが、このケースでは動産執行も付されていたようである(しかも即日の執行である)。動産執行の結果、その金額は滞納家賃に充当されていくが、その場で、買い戻す気のある債務者に買戻しをさせる。目の前で、例えばこのテレビは「3000円」と値付けされ、買戻しにあたって「6000円」と言われるのだ。もちろん、経済の仕組みとして、商品には仕入れ代金と売却代金があり、後者が前者より高いこと、その差額が道具屋の利益になることは当たり前であり、頭の中では理解している。しかし、目の前でそれをやられるのは、第三者である私が切ないくらいだから、当人の気分は推して知るべしである。母親は、買戻しをすることはなかった。

 その他の不要品は、すべてゴミとして夢の島行きとなる。もちろん、居住者の意思確認をしてのことである。片付けをしているうちに、アルバムが数冊見つかった。まだ中学生くらいの女の子の小さい時からのアルバムであった。アルバムをぱらぱらと見て確認をした執行官が、女の子に持ち帰っていいですよと声を掛けた。女の子は、小さな声で「要りません」と答えて、窓際に立ったまま、外をボーっと見ていた。何を考えていたのだろうか。これまた悲しい絵である。

 執行終了後、感想を問われたので、執行官に私の気分を伝えると、幾度も猶予してあげて、母親の言い分どおりに少額での分納も認めたのに、それでもダメなんだから、自業自得で同情する余地などありませんよと、ばっさりと切り捨てられた。イヤーな気分で裁判所に戻った。

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強制執行

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