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Album Review:柴咲コウ『こううたう』 心地よい緊張感が漂うキャリア初のカバー・アルバム

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 柴咲コウ、キャリア初のカバー・アルバム。その選曲は、中島みゆき「糸」のようないわゆる“クラシック”から、ゲスの極み乙女。「だけど僕は」のような最近の曲まで、J-POP史を気ままに横断するセレクトが印象的。タイトルは「(その名曲を)どう歌うの?」という問いに対する回答にかけて。つまりは聴いて判断しろ、とういうことだろう。実際、アルバムは柴咲コウの歌をかなりクリアに聴かせる内容で、ちょっとした音程やリズムの揺れもあえて残し、歌い手の意識まで感じられるよう。その独特の緊張感が、本作に個性をもたらしている。

 そもそも柴咲コウほど筋金入りの“女優兼歌手”は他にいない。誰もが認める国民的な女優としての存在感を維持しながら、歌手活動13年で、アルバム6枚、シングル28枚。圧倒的な知名度とタイアップ率ゆえに、普通の歌手ほどにはライブ・ツアーによるプロモーションをする必要がないとは言え、その作品量には改めて驚く。

 彼女の場合、自らが出演し歌も担当した映画『黄泉がえり』での、なかば偶発的なデビューが歌手キャリアのスタートだったこともあって、その歌手活動は常に「なぜ歌うのか?」という(自問を含む)問いとの長い並走でもあったようだ。本作の歌から聴こえる独特の緊張感は、そうした自問や自覚の積み重ねの上に、彼女の歌の個性が成立していることの現れであるように思う。

 『こううたう』は編曲陣の仕事ぶりも印象深い。基本はボサノバやジャズをベースに、リズムを硬直させるドラムを極力排し、代わりに多くの曲でパーカッションが活躍。サウンドの空間性を感じさせるアレンジが多く、その上で、あくまで“歌のアルバム”として、柴咲の声を十分に聴かせようという意識も強く感じる。アレンジャーや演奏者の歌い手に対する信頼感が潔く、気持ちが良い。

 心地よい緊張感。そんな本作の魅力は、仮に柴咲が天性の天真爛漫なシンガーだったなら、おそらくは備わらないままであったものだろう。歌い手がきちんと背筋を伸ばして歌っていることが分かる。にも関わらず、本作を聴き手はただ単に気持ちの良いアルバムとして、背筋を丸めてリラックスして聴くことも出来る。そんな良い意味での素っ気なさも魅力だ。大げさにならず、しかし、そのキャリアを改めて祝福するような粋なアルバムだ。

文:佐藤優太

◎カバーアルバム『こううたう』
2015/6/17 RELEASE
[初回限定盤(CD+ポエトリー&ビジュアルブック「こうつづる」(44P)]
VIZL-782 3,500円+税
[通常盤(CD)]
VICL-64295 3,000円+税

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