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労働格差を助長する新ルール5案 企業の裁量権は拡大の一途

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 いま、正社員、非正規社員に限らず、すべての労働者に対して現在の職場環境や今後の勤務形態を大きく変える“新・労働ルール”が矢継ぎ早に制度化されようとしている。

〈行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換〉〈多様な働き方の実現〉など、安倍政権が掲げる成長戦略に基づき、雇用・労働法制におけるさまざまな見直しや緩和が進められているからだ。

 だが、残業時間や裁量労働制、派遣業務、解雇規制……、あらゆるテーマが別々に論じられているうえに準拠する法律もバラバラなため、多くの労働者は「自分には関係ないだろう」などと他人事に思っているかもしれない。

 そこで、人事ジャーナリスト・溝上憲文氏の協力の下、これから導入される主な労働ルール5案と懸念材料を整理してみた。

【高度プロフェッショナル制度】
“残業代ゼロ法”と批判されている労働基準法改正案のひとつで、成立すれば来年4月に施行。年収1075万円以上の人を対象に、時間外、深夜・休日の残業代を一切支払わなくてもよいとする制度。「高度の専門的知識を要する業務」に絞られているが、今後、該当業種の拡大や年収要件の引き下げなどが危惧されている。

【企画業務型裁量労働制】
 上記と同じ労働基準法改正案。いわばブラック企業で横行する「固定残業代」の法制度化。1日の労働時間を9時間に設定すれば、8時間を超える1時間分の手当ては出るが、それ以上の残業代は出ない仕組み。年収要件がなく、対象業務は「企画・立案・調査・分析」から法人営業職なども追加されたため、サービス残業が増える恐れあり。

【派遣労働者の勤続上限3年】
 労働者派遣法の改正案で、今国会で成立すれば今年9月施行へ。派遣社員が同じ派遣先の職場で働ける上限を3年に定める。企業にとっては派遣社員を3年ごとに入れ替えながら低賃金で雇用し続けることができるのでコスト削減につながる。派遣ニーズの高まりにより、正社員まで派遣社員に置き換えられるのではないかとの懸念がある。

【契約・パート社員の5年ルール】
 労働契約法の改正で2013年4月1日に施行済み。パートやアルバイト、契約社員など非正社員の勤続年数が5年を超えたとき、会社から契約期間の定めを外してもらえる制度(申し込みは2018年4月1日より)。長期雇用を希望する非正社員にはメリットが多いように思われるが、契約期間の解除を条件に給料を引き下げられる可能性もある。

【解雇の金銭解決制度】
 6月に出る新たな成長戦略に盛り込まれる予定(審議時期は未定)。労働者が企業に不当解雇を訴えた場合、金銭補償(和解)で紛争を解決できるように法制化しようというもの。一見すると、労働者の“泣き寝入り”を防ぐ制度にもみえるが、企業側に「カネさえ払えば解雇できる」との認識が広まれば、逆に不当解雇が増える恐れにもつながる。

 こうしてみると、数々の改革は労働者の味方なのか疑問が沸いてくる。一体、安倍政権は労働政策にどんな理想形を描いているのか。溝上氏がいう。

「安倍政権はしきりに『雇用の流動化を図る』といっていますが、結局は要らない社員を外に吐き出して身軽になりたいという経済界の要請に乗っかっているだけ。そして、あぶれた社員は新しい成長産業に移動すればいいと虫のいい考えを持っています。

 しかし、いまの日本の成長産業といったら、誰も行きたがらない3K職場の介護分野ぐらい。セーフティーネットも整わない中で、“失業なき移動”がスムーズに進む可能性は低いでしょう。数々の制度化によって会社の裁量権が大きくなる一方、労働者の権利はますます狭められ、弱い立場に追い込まれることになります」

 社会保険労務士の稲毛由佳氏も、安倍政権の強引な労働市場改革には首をひねる。

「安倍首相が目指している政策は、欧米のように競争社会を促し、その中で生き抜ける人を主軸にした弱肉強食のものばかり。

 でも、日本は突出する人材を多く生む土壌ではありませんし、そもそも『実績を出せば文句はないだろう』と個人プレーでやっていけるスーパービジネスパーソンは少数といえます。可もなく不可もない人たちの総合力で勝負する国民性といっても過言ではありません。

 そうしたスタンスを否定して脱落者を生みっぱなし政策を取りつづければ、賃金も含めた労働格差は広がる一方ですし、人材の流動化に結びつくはずがありません」

 先ごろ政府がまとめた新しい成長戦略の骨子には、産業の新陳代謝や専門職人材の育成などにより、労働生産性を抜本的に高めていく――と改めて示された。少子高齢化で働き手不足も叫ばれる中、本当に労働市場を活性化させたいのであれば、むしろ“労働弱者”の受け皿を拡充させるほうが先決なのではないか。


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